No.006 ”データでデザインする社会”
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災害データとテクノロジー

防災に活用できる科学的なデータとしては、どのようなものがあるのだろうか。災害に関するデータと、それを観測するテクノロジーについて、災害前(災害が起こっていない日常の時点と、災害が起こる直前)、と災害後(直後、そしてライフライン復旧が求められる事後)、の2つのステージで整理しながら紹介したい。

災害がまだ起こっておらず、社会が正常に運行している時点でも、防災のために地球上の様々な自然現象が観測され、予測のためのデータとして蓄積されている。

私たちに最も身近なのは気象データである。雨量や温度、湿度、気圧などのデータが各地の気象観測所で集められ、また人工衛星から、可視光線、赤外線、電波などのセンサーを使って地表や地中を観測しデータが収集されている。そのデータを官庁や民間機関が分析し、天候予測と災害兆候のキャッチを行う。経済や地震の予測とは違い、気象は高い精度で予測が成功している数少ない分野である。観測機器の精度向上と、コンピューターの計算能力の向上によるシミュレーションが精緻になっているためだ。

精度の高い豪雨データを観測する機器の一つに固体化気象レーダーがある。2010年から設置が始まった気象レーダーで、気象庁ではなく、国土交通省が管轄しており、豪雨を気象のみならず「災害」としても捉えていることがわかる。仕組みとしては、大気に向けて電波を発射し、雨粒などにあたって反射した電波をキャッチして、大気の状態を観測するというもの。電波の発射機能をチップに収め(=固体化)、小型化、省エネ化、コストダウンを実現している。より細かいデータをリアルタイムに取得できるようになり、ゲリラ豪雨のような急激な気候の変化をキャッチし、災害に備えるための情報を提供することができるようになった。

地形のデータとしては、地質や地形など変化の無い情報と、変化する地形(火山や海底地形の振動など)や水位(潮位や川の水位)などがある。例えば人工衛星からの観測によって得られた地すべり地形のデータは、豪雨の際などに危険な場所をあらかじめ把握することができる重要な防災データとなっている*1また地震の兆候は、地上や海底に置かれた地震計、そして人工衛星から大地の変動・移動を計測したデータも活用し、一定の判断手続きを経てその兆候を知らせるようになっている。

また災害の直前、観測データの分析により、各種災害の発生が予測されると気象庁が判断した場合、地震情報、津波情報、火山情報、気象情報等などが、報道機関や各省庁、都道府県、警察などに情報が送られる。そのうち、地方自治体への通知は、J-ALERT(全国瞬時警報システム)が担う。総務省消防庁は、緊急に伝達を要する情報が確認できた場合、衛星通信を経由して地方自治体に伝達、緊急性の高い「緊急地震速報」、「津波警報(大津波)」、「津波警報(津波)」、「噴火警報」については、人間の手を介さず、自動的に防災行政無線が起動することになっている。

J-ALERTの送信イメージの写真
[写真] J-ALERTの送信イメージ(出典:消防庁「全国瞬時警報システム」リーフレットより)

災害の発生直後、そして事後では、被災状況の観測データと、ライフライン企業の持つユーザーデータが、防災のために活用されている。

災害発生直後は、被災状況の正確なデータがなによりも重要である。被災地に近い定点観測地点や衛星からのデータ、そして現場周辺のユーザーが発信しているデータも貴重なソースとなりうる。

たとえば、はやぶさの活躍で知られるJAXAが運用している地球観測衛星「ALOS(だいち)」
http://www.sapc.jaxa.jp/antidisaster/img/kansoku.pdf)は、世界各国の機関との連携、要請により、洪水、火山噴火、地震・津波、油流出、海氷、土砂崩れなどの災害発生時に緊急観測を行い、そのデータを関係機関に配布している。*2また、人工衛星からレーザー光を使って地上をスキャニングするようなLiDARという技術は、被災後の精密な画像を得ることができる。こうしたデータをWebを通じてオープンにしておくことで、様々な関係者がそのデータを加工・分析し、救援や復興支援のための資料として活用することができるのである。

また災害発生直後は、通信や道路、鉄道等の社会的インフラが機能しなくなっていることも考えられる。インフラを運営しているライフライン企業は、システムの運営状況やユーザー情報を持っている。プライバシーの考慮など一定の手続きを経た上で、こうしたデータをオープンにすることで、国や自治体等と連携しながら二次災害の減災に寄与することもできる。

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