No.006 ”データでデザインする社会”
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データを活用した防災・減災事例

実際に、データを防災・減災に活用した事例をいくつか見てみよう。

まずは、自治体のオープンデータによる防災の試みを紹介する。

オープンデータ先進地域として知られている福井県鯖江市は、多くのデータを利用しやすい形式で公開し、企業や市民がそのデータを使ってアプリケーションを開発しやすい環境を整えている。その中の一つに、消火栓マップ(http://fukuno.jig.jp/2012/syokasen)がある。公開されている市内の消火栓の位置データをもとに、グーグルマップ上にその位置をマッピングしている。たとえば雪に埋もれて消火栓の位置が目視で確認できない場合、あるいは道路が寸断されて消防車のアプローチが平常時とは違う場合などに、このマップを利用するといった状況が想定できる。

横浜市でも、公式サイト上に、防災関連データの公開ページ(http://www.hinanjyo.jp/)が用意されている。地域防災拠点、津波避難施設、応急給水拠点、帰宅困難者一時滞在施設のデータを、プログラマーが活用しやすいXML*3形式で公開している。このデータを市民が活用した例として、スマートフォン用の避難所検索-ルート案内アプリがある。

次は、ライフラインの被害状況の共有に関する事例である。電気、ガス、水道、道路などのライフラインが災害によって被害を受けることがあり得る。こうしたインフラを管理する自治体やライフライン企業が保有している防災・災害情報を公開することで、被災地の救援や被害からの復旧に資することが可能である。

東日本大震災が発生した2011年3月11日以降、道路が寸断された被災地では、救急車両や救援物資を運ぶ車両の通行もままならない状況にあった。こうした状況で、自動車メーカーのホンダは、同社の車が実装している位置情報や走行状況を収集する機能で集められた膨大なデータを分析し、その結果をグーグル社のGoogle Mapに連携することで、被災地の通行可能な道路の情報を3月12日に公開した(https://www.google.org/crisismap/japan)。17日にはトヨタ自動車の収集していたデータも「通れた道マップ(http://map.g-book.com/)」として提供を開始。災害復旧に民間のデータが活用された事例となった。

さらに海外の事例としてハイチをみてみよう。2010年1月に発生したハイチ地震では、死亡者23万人(公務員の3分の1が死亡)、30万人の負傷者、10万戸の建物の全壊をはじめ、1000万人の人口のうち150万人が家を失っている。国連やNGOが様々なレベルでの救援活動を行ったが、オープンデータを活用した被災地対応も実施された。

ハイチ支援のイニシアチブをとったのは、世界銀行の下部組織GFDRR(世界銀行防災グローバル・ファシリティ/Global Facility for Disaster Reduction and Recovery)。GFDRRは、"resilient society"(回復力のある社会)を掲げ、被災地への様々な支援を行っている。中でもOpenDRI 「The Open Data for Resilience Initiative」(https://www.gfdrr.org/sites/gfdrr.org/files/publication/OpenDRI_Overview_2013.pdf)は、現地の意思決定者にとって有益な正確な情報とツールの提供を行うことを目的に、オープンデータの活用を推進しているイニシアチブである。正確なデータがあればあるほど、そこから正しい政策判断を行うことができ、結果として被災を最小限に抑えることができる、という考え方である。ハイチの被災時も、特設サイトHaiti Dataを開設し、基本的な地形データや上述したLiDARによる被災状況を示した衛星画像データなどを、世界各国の研究者やNGOが利用しやすい形で公開した。サイトにはこうしたデータを使って様々なマップが世界中の有志によって作成され、救済のための意思決定に寄与した。

フォルクスワーゲングループ・モジュールツールキット(MQB)の図表
[写真] Haiti Dataのデータ公開例:水色部分が洪水のリスクエリアを表す。研究者やNGOが利用しやすいベクターデータで提供している。(2010年5月 United Nations Institute for Training and Research (UNITAR)提供。

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