No.006 ”データでデザインする社会”
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これからの防災とオープンデータ

日本におけるデータのオープン化の流れは、政府の「電子行政オープンデータ戦略」*4の方針もあり、国、自治体、ライフライン企業も含めて今後も進んでいくであろう。また、観測機器の高性能化・小型化・コモディティ化やスマートフォンの進化等によって、より広範に膨大なデータが蓄積されていくことも間違いない。こうしたデータを、防災・減災のために役立てていく試みは、今後どうなっていくのだろうか。

ハイチの事例で取り上げたOpenDRI の試みでは、「正確なデータがよりよい政策判断を促す」という考えかたが活動の中心にある。日本のオープンデータの試みはまだ端緒についたところで、「利用しやすい形でのデータ提供」について課題も多い。研究者やプログラマーにとって利用しづらい画像やPDFデータでの公開にとどまっているものもまだまだある。CSV*5やXMLなどのデータ形式で提供することで、はじめてそのデータを活用したアプリケーションやサービスの開発が進み、災害への対策、被災後の復旧の効率化もあがっていくだろう。こうした防災データの標準化についても検討が始まっている。*6

また自動車の運行状況やガス・電気の使用に関するライフライン企業のデータに関しては、個人情報にあたるため取り扱いが難しい面もある。災害が発生した場合に限り、迅速にデータの利用を解放するなどの法的な枠組みも準備する必要があるだろう。

災害発生と同時に、被災地のデータが適切に公開されればされるほど、防災・減災の効果があがる。いまどこが危険なのか、どこが安全なのか、といったインフォメーションを、たとえば被災地の地球の裏側のエンジニアが提供することができるようになるかもしれないのだ。

データ活用のアプリケーションは、ビジネスにはなりづらいこと、そして災害が発生する以前の平常時には、なかなか差し迫った危機として認識されないこともあり、開発が進んでいないことも多い。こうした状況に対しては、データを活用した防災プログラミングイベントやコンテストなどが開催されている。

その一つが、2011年からオープンなデータづくりとその活用に関する取り組みを評価するコンテストとしてはじまったLODチャレンジ*7。広範なテーマでのデータ活用を対象としているが、その中でも防災・減災のためのアプリケーションも多くエントリーされている。たとえば「リモートでちょっと川の様子を見てくる」というアプリケーションは、川の水位のライブデータ、浸水想定区域、避難所と避難経路などをマップに示し、自主的な判断ができるようにするためのもの。オープンデータ流通推進コンソーシアムと総務省が主催する「オープンデータ・アプリコンテスト」(http://www.opendata.gr.jp/2013contest/index.html)(2014年2月に応募締め切り)なども同様の試みである。

データの公開と活用が災害復旧のための強力なツールになり、大災害の防波堤となる。いや、防波堤という比喩では表現できない、新しい防災・減災の試みが、少しづつ始まっている。

[ 脚注 ]

*1
地すべり地形GISデータ:
http://lsweb1.ess.bosai.go.jp/gis-data/
*2
JAXAの災害への対応:
http://www.sapc.jaxa.jp/antidisaster/
*3
XML形式:
Extensible Markup Language の略で、文書やデータの意味・構造を記述するためのデータ形式の一つ。この形式でデータを記述することにより、機械が自動的に文書の構造を把握でき、さまざまなアプリケーションに利用できる。
*4
電子行政オープンデータ戦略:
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/denshigyousei.html
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/opendata/opendata02.html#p2-2-1
*5
CSVファイル:
データをカンマ(",")で区切って表記するファイル形式のこと。表データの記述の仕方としては最も汎用性が高い。
*6
防災データの標準化の試み:
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/kentokai/kentokaigi/02/pdf/sankou1.pdf
*7
LODチャレンジ2013:
http://lod.sfc.keio.ac.jp/challenge2013/show_status.php?id=a108
http://pingineer.net/flood-map/

Writer

淵上 周平(ふちがみ しゅうへい)

1974年神奈川県生まれ。
中央大学総合政策学部にて宗教人類学を専攻。
編集/ウェブ・プロデュースを主要業務とする株式会社シンコ代表取締役。

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