No.006 ”データでデザインする社会”
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政治

Web選挙—ネットワークとデータベースによる政治への動員

アメリカ大統領選は、二大政党とその支持者たちが、互いのポリシーと知恵とネットワークでしのぎを削りながら行う、国民を二分する巨大な"おまつり"である。ここ最近の2回の選挙で勝利したバラク・オバマ大統領は、Webをうまく活用した選挙戦を展開して勝利を得たことがよく知られている。日本では、政治風土の違いや環境整備の遅れもあり、まだまだはじまったばかりのWeb選挙。Webやデータを活用する選挙運動の最前線を、オバマ陣営の取り組みから見てみよう。*3

基本的に、Webを通した様々なツールは、個別訪問と電話による活動という地上戦をサポートする役目を果たした。まず選挙ボランティアのための「ダッシュボード」というSNS。全米に散らばっているオバマ支持のボランティア運動員たちは、このSNSに登録することで、地元選挙区の活動の内容をリアルタイムに把握でき、ボランティア同士でコミュニケーションをとって情報共有をしたり、全米各地の活動状況や成功している手法、失敗の振り返りなどを行うことができた。選挙事務所機能のアプリ化である。

「コールツール」は、投票依頼の電話を効率的に掛けるためのスマートフォンアプリ。オバマ支持ではない人への連絡は想定しておらず、支持者に対して「忘れずに投票に行ってね」というメッセージを伝えるために使われたという。

同様にスマートフォンアプリ「キャンバス」は、個別訪問(日本では許可されていない)を効率的に行うために、訪問ルートを地図上にマッピングしてくれるツール。日本では"ドブ板"とも呼ばれる「とにかく有権者に会う」選挙手法は、データを使ったアプリケーションで、スマートに実現している。また、アプリ上から簡単に小口で寄付行為ができるなどの仕組みによって、ネット経由での資金集めにも成功。2008年の選挙でオバマは、300万人以上から寄付を集め、総額の91%が個人からの寄付だったという(対立候補のマケインは54%)。この他にも総数200個以上にも及ぶサービス/アプリケーションを活用したが、インフラとして活躍したのはクラウド型サーバのアマゾンAWSであった。選挙活動は、投票日前になればなるほど盛り上がり、アクセスも急上昇する。こうしたアクセスの大きな変化に対応するために、拡張が簡単に行えるクラウド型のサーバが重要な働きをしたようだ。*4

オバマのWeb選挙では、民意を動員し、可視化し、組織化して、大きな力にするという民主主義のダイナミズムを、データベースとネットワークを存分に活用することで実現している。日本はアメリカのような二大政党制ではなく選挙への関心の度合いも違うこと、Webやソーシャルメディアの浸透率などが違うこと、そして政治文化や制度が違うことなどがあり、すぐにはこうしたWeb選挙は実現しないだろう。特に日本の選挙は、地域ごとの選挙区制が、Web選挙の浸透の大きな制約になる、という指摘もある。Webは、地域を超えた情報の共有と発信という大きな強みがあるが、地域ごとに分かれた選挙区制の中では、この強みを十分に活かすことができないからである。ただし参院選の比例代表は全国区であり、効果を見込むことができ、ソーシャルメディアとデータベースを活用したWeb選挙は、日本においても今後、徐々に浸透していくであろう。

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