データが生みだす新しいパブリック
データベースとネットワークが開く世界は、確実にパブリックの概念を変えていくだろう。これまで見てきた様々な事例を見ても、既にその変化は大きな影響力を持って、国家や政治、民主主義のかたちを更新している。Web2.0というコンセプトを提出して話題になったティム・オライリーは、2009年にさらにガバメント2.0という考えを示した。*7行政機関は様々なデータをオープンにし、その活用を支援するプラットフォームとして機能するべきだという考えである。世界中で進んでいるオープンデータの動きは、プラットフォームとしての行政というこの考えを実践しているようにも思える。ティム・オライリーはガバメント2.0を解説するテキストの中で、ハワイの土木工事の例をとりあげている。ハワイのカウアイ島で、公園に至る道が海に流されてしまった。州政府は工事予算が無く、公園は閉鎖の危機に立たされる。すると公園の存続を求める地元企業のグループが活動を始め、資金を募り、ボランティアを募り、自分たちで道路を修復して再び公園へアクセスすることができるようになったのである。これをDIO(DO IT OURSELVES)公共事業とオライリーは表現した。国は、様々なデータを提供することによって、こうした民間による公共事業を様々な面からサポートするプラットフォームのような存在として機能すべきではないのかと、オライリーは説く。
国や自治体といった"お上"による公共事業のイメージが強い私たちにとっては、民間による土木工事というものがピンとこないかもしれない。しかし昔に遡ってみれば、大阪の水路を渡すたくさんの橋は、地元の商人たちが普請して作ってきたものだ。だとすれば近い将来、ソーシャルメディアとクラウドファンディングの仕組みを通じて、自分たちで橋を作ったり直したりすることができるようになる、というのもあながち夢物語とは言えまい。民意を表現する方法は選挙だけではないし、国や自治体だけが公共セクターを運営するわけでもない。データベースとネットワークによって着々と書き換えられていく現実が、新しいパブリックの姿を浮かび上がらせていくのである。
[ 脚注 ]
- *1
- Yahooの選挙予測
- *2
- クーリエジャパンWeb掲載のインタビューより若干の表現を変えて引用
http://courrier.jp/blog/?p=15895
- *3
- ビッグデータはいかにオバマを勝利させたか? (津田大介の「メディアの現場」vol.76 より)
- *5
- エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/npu/kokumingiron/dp/index.html - 課題や問題点については菅原琢の以下のテキストを参照
http://www.crs.or.jp/backno/No661/6611.htm
- *6
- 哲学者の國分功一郎は、自身も運動に参加した、小平市での道路拡張と森の保存の対立問題に関連して、選挙を通して立法権には関わっているが、行政権には国民がほとんど関われないことに疑義をしめしている。
- *7
- ティム・オライリー特別寄稿:ガバメント2.0―政府はプラットフォームになるべきだ
http://jp.techcrunch.com/2009/09/05/20090904gov-20-its-all-about-the-platform/
Writer
淵上 周平(ふちがみ しゅうへい)
1974年神奈川県生まれ。
中央大学総合政策学部にて宗教人類学を専攻。
編集/ウェブ・プロデュースを主要業務とする株式会社シンコ代表取締役。