No.006 ”データでデザインする社会”
Scientist Interview

──そうしたパターンがビジュアル化されていると、すっかり信じてしまいそうになりますね。

そうです。もうひとつよく引き合いに出される例は、チョコレートとノーベル賞の関係です。ある統計によると、「一人当たりのチョコレート消費量が多い国ほど、ノーベル受賞者が多くなる」という。縦軸と横軸にチョコレート消費量とノーベル賞受賞者の数をとり、国ごとにドットで記していったところ、分布が上昇線状になる。そこで、チョコレートを食べることとノーベル賞の間に相関関係を見いだしたというわけですが、これには何の意味もありません。豊かな国ならば、教育も行き届きノーベル受賞者も増える。豊かだからチョコレートもたくさん食べるでしょう。つまりは、国の豊かさこそが要因なのかもしれない。ですから、もっと他の変数を考慮しなければ意味はないはずなのに、どうしてもパターン化したいという欲望が意味のない相関関係を見いだすことに働いてしまうのです。

──読者や見る側として、情報グラフィックスに対するリテラシーはどのように鍛えればいいのでしょうか。

先ほども言ったように、まず情報グラフィックスは見るものではなく、読むものであると心することです。その上で、そのグラフィックスが拠り所としているデータが良質のものかどうかを見極め、さらにそのデータとグラフィックスが合致しているかどうかを確認します。たとえば、最近アメリカと他国の1日の入院費用を比べたグラフィックスがありました。アメリカの医療費が飛び抜けて高いことを伝えるためのグラフィックスだったのですが、それを見ていて「ちょっとおかしいな」と感じたのです。まず、入院費は単純に比較されていて、各国の物価や収入などの違いを盛り込んでデータを制御していない。制御するのは簡単なことで、ウィキペディアなどで各国の平均収入を調べ、その収入に対して入院費用が何パーセントかをはじき出せばいいのです。実際にそうしてみた結果、アメリカの入院費用は確かにもっとも高いが、第2のニュージーランドと比べてそれほど大きな差があるわけではないとわかりました。また、データ自体にも問題がありました。アメリカの数字は10万ものケースから引き出されたものであったのに、他国のデータはたったひとつの医療関連機関の1年間の数字からしか取っていなかったのです。これでは正確な比較はできません。

──しかし、情報グラフィックスを目にして、そうした検証作業を行うのは手間がかかりますね。

最初はそうでしょう。頭の中で歯車がきしむように感じるはずです。けれども回を重ねるにつれてどんどん慣れ、いずれ変だなとすぐにわかるようになります。先ほどのマイケル・シャーマーは、これを「bullshit detector(でたらめ探知機)」と呼んでいて、おかしなことをすぐに感知する能力をどう研ぎすますのかを説いています。また、統計家のカイザー・ファングは、「number sense(数字感覚)」は人が共通して持っている感覚で、これを鍛えるべきだと言っています。メディアではいつもこの手の間違いが起こっていますから、そうしたスキルを鍛えるのは大切なことです。

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