No.006 ”データでデザインする社会”
Scientist Interview

──情報グラフィックスが、もっと大きな枠の中に配置されるということですね。

この方法は何にでも使えるというわけではなく、確固とした論理が成立するケースにだけ利用できるものです。物語の構造がそこにあるのですが、だからといって、その内容をでっち上げているわけではない。

──ここ数年は「ビッグ・データ」についての話題に事欠きません。しかし、たいていのビッグ・データは企業が保有し、一般人やジャーナリストがアクセスできるオープンで公共なデータからは隔離されています。そうしたビッグ・データがどんどん拡大していくと、いくら情報グラフィックスで伝えることはできても、扱えるデータの世界が相対的に小さなものになっていくのではないでしょうか。その結果、情報グラフィックスの説得力が弱まっていくリスクはないでしょうか。

ビッグ・データは私の専門外ですが、ひとつ言えるのは、企業側の私有データが膨張する一方で、公共のデータも膨張していくということです。政府、NGO、国連、世界銀行などを含め、データを無限に拡大させていく組織がたくさんあります。拡大するだけでなく、その内容もどんどん複雑になっていく。市民としては、それを利用しない手はありません。

──今後5年間で、データや情報グラフィックス、そして情報のビジュアル化はどんな方向へ進むと思いますか。

ますます多くのツールやテクニックが生まれ、それらが使いやすくなり、洗練されたグラフィックスが生み出されるはずです。現在私が教えている学生の90%は、特にジャーナリストになるわけではなく、マーケティングをはじめ広くビジネスの世界で仕事をする。その結果、世の中のあらゆるところで、情報のビジュアル化が見られるようになるでしょう。

Profile

アルベルト カイロ

インフォグラフィックデザイナー

2012 年よりマイアミ大学(UM)コミュニケーション・スクールでインフォ・グラフィックスと可視化を教える。UMの計算科学センターの可視化プログラムのディレクターも務める。情報社会学ジャーナリズム (サンティアゴ ・ デ ・ コンポステラ大学) で 修士号を取得。ビジュアルコミュニケーションとジャーナリズム、認知科学の融合に関心を持つ。

著書として「The Functional Art: an Introduction to Information Graphics and Visualization」(ボーンデジタル プレス)「Infografía 2.0 Visualización interactiva de información en prensa」 (Alamut, スペイン) などがある。

2010 年 6 月〜2011 年 12 月の間、ブラジルで最大のメディア グループ EditoraGloboの雑誌の部門で、インフォグラフィックとマルチメディアのディレクターを務めた。2008 年〜2009年にはノースカロライナ大学で助教。インフォグラフィックの国際賞も受賞。ビジュアルジャーナリズムの影響力のある国際会議でたびたび基調講演を行い、多くの大手出版社でコンサルタントを務め、20か国で教えている。

http://www.thefunctionalart.com/p/about-author.html
http://www.amazon.co.jp/Functional-Art-The-introduction-visualization/dp/0321834739/

Writer

瀧口 範子(たきぐち のりこ)

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。雑誌社で編集者を務めた後、フリーランスに。1996-98年にフルブライト奨学生として(ジャーナリスト・プログラム)、スタンフォード大学工学部コンピューター・サイエンス学科にて客員研究員。現在はシリコンバレーに在住し、テクノロジー、ビジネス、文化一般に関する記事を新聞や雑誌に幅広く寄稿する。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』(TOTO出版)『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(TOTO出版)、訳書に 『ソフトウェアの達人たち(Bringing Design to Software)』(アジソンウェスレイ・ジャパン刊)、『エンジニアの心象風景:ピーター・ライス自伝』(鹿島出版会 共訳)などがある。

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