導体でも半導体でも制御可能
──半導体デバイス用材料としてのナノカーボン材料の特徴を教えて下さい。
CNTやグラフェンは、半導体デバイスへの応用が期待されている新材料の中で、その潜在能力の高さと応用範囲の広さで、他を圧倒している存在だと思います。きっちりと利用すれは、"モアムーア"向け、"モアザンムーア"向け、"ビヨンドCMOS"向けの材料として、突き抜けた特性を得られることが、既にシミュレーションで確かめられています。
ナノカーボン材料は、回路内で素子の間をつなぐ導体としての配線材料にも、半導体としてトランジスタを作る材料にもなります。CNTはカイラリティ(螺旋度)を、グラフェンは電流が流れる方向に直交する幅を変えることで、導体・半導体・絶縁体といった電気的な性質を決める物性値であるバンドギャップを調整・制御できます。カイラリティとは、グラフェンのシートをどのような方向に巻いてチューブ構造が出来上がっているのかを示す指標です。電気的な性質を思い通りに変えられる特徴によって、広範な用途のニーズに柔軟に合わせることができます。究極の目標として、ナノカーボン材料だけでデバイスを作ることもできるのではないかと考えています。
──電子機器に組み込まれる半導体デバイスにナノカーボン材料が使われるのは、いつ頃になりそうでしょうか。
ナノカーボン材料だけでデバイスを作るのには、20年、30年といった長い時間が必要だと思います。新しい材料を使いこなして製品としての半導体デバイスを開発・製造するには、量産技術や品質を保証する技術、これを効果的に使いこなすための技術など、付帯技術を一つひとつ揃えていかなければなりません。現在多用されているSi(シリコン)ベースの半導体デバイスには、こうした付帯技術に分厚い蓄積があります。このため、Siベースのデバイスに置き換わるものとして、すぐに実用化できるわけではありません。
ただし、ムーアの法則の先行きに不安を感じているのは、まさに今です。長い時間待っているわけにはいきません。このため、"モアムーア"、"モアザンムーア"、"ビヨンドCMOS"それぞれのどの部分に、どのような特性のナノカーボン材料を投入すれば効果的に使えるのか、適用先を見定めて集中的に実用化を目指す戦略が重要になってくると考えています。
──微細化の継続を狙う"モアムーア"では、どのような部分にナノカーボン材料が使われるのでしょうか。
論理LSI(高集積回路)やメモリーといった大規模な回路を集積した半導体デバイスへの応用では、一般的には、おおよそ次のような使い分けが考えられています(図2)。"モアムーア"について考える場合、トランジスタのチャネル領域(スイッチの特性を左右する部分)と配線の微細化が、集積度や性能の向上につながる重要なポイントになります。
![]() |
このうち、トランジスタのチャネル領域に関しては、CNTとグラフェン、それぞれで技術開発が進められています。一方配線については、横方向の微細配線はグラフェンで、多層配線の各層をつなぐ縦方向の配線にはCNTを使う検討が進んでいます。いずれも実用化に向けて、着実に前進しています。ただ実用化に近づいているだけではなく、シミュレーションでも想定していなかった、びっくりするような良い特性が実験で得られているケースもあります。