No.008 特集:次世代マテリアル
Scientist Interview

消費電力が1/100にも

──どのような開発の成果が得られているのか。代表的なものをご紹介ください。

まず、電圧で流れる電流の量を調整するトランジスタであるMOS FETのチャネル領域に半導体のCNTやグラフェンを使うことで、電源電圧を0.1Vに下げて駆動できることがシミュレーションで示されています。現在の最先端LSIに使われているトランジスタの電源電圧は1Vです。消費電力は、電源電圧の2乗で増大するため、1/10の電圧は消費電力を1/100に低減できることになります。現在の電子機器は、分野を問わず、消費電力の低減が大きな課題になっています。ナノカーボン材料を使ったトランジスタの実用化は、大きなインパクトをもたらすことでしょう。

特にCNTを使うものに関しては、研究開発の歴史が長いこともあって、可能性を探る科学技術の探求から、実用化を目指す工業技術の開発へとフェーズが移ってきているように見えます。特に積極的に技術開発しているのがIBM社です。同社は、これまでの技術開発の進展具合の延長から、2020年にはCNTを応用したトランジスタを作る技術を確立できると見ているようです。

実用化には精密な制御が不可欠

──それは楽しみですね。実用化までには、どのような課題を克服する必要があるのでしょうか。

2つの課題を克服することが前提です。まず、CNTは、作る時に、金属の性質を持ったものと、半導体の性質を持ったものが混ざり合って出来上がります。このため、トランジスタに応用するためには、半導体の性質を持つCNTだけを高純度で選り分ける必要があります。さらに、CNT1本だけをきっちりと所定の位置、所定の方向に置いて使えば、優れた特性が得られることは確実です。しかし、実際にはまとまった電流を流さなければ使えません。このため、多数のCNTを同じ領域、同じ方向に並べる技術が必要になります。

選り分ける技術は、かなり前進しています。日本では産業技術総合研究所のグループが、99.9%の純度の半導体CNTを得ることに成功しています。今では、カイラリティで分けて分離できるようになりました。合成時にカイラリティを制御する技術も出てきています。つまり、バンドギャップの幅を調整して、電気的な特性を制御することができるようになってきているのです。

CNTの位置を定める技術や同じ方向に並べる(配向させる)技術に関しても、着実に進んでいます。ただし、配向させる過程で使う薬品の影響が残るのか、作ったデバイスの特性が思ったほど向上しない状況のようです。この点を改善し、その後、トランジスタのオン状態とオフ状態のしきい値がばらつかないように抑制し、加えてコンタクト抵抗の改善などを進めていくことになります。

──グラフェンをチャネル領域に使う検討は、どのくらい進んでいるのでしょうか。

グラフェンをチャネル領域に使うことで、高い移動度を生かした高速のMOS FETを作れる可能性があることが、シミュレーションで予測されています。しかし、グラフェンそのものには、チャネル領域への適用に欠かせないバンドギャップがありません。このため、チャネル領域の幅をナノレベルにまで細くしたグラフェン・ナノリボンを作るなどの方法で、バンドギャップを形成する必要があります。しかし、現時点ではその制御が十分できていません。ただし、配線材料としてのグラフェンには、新しい可能性が見えてきています。

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