No.008 特集:次世代マテリアル
Scientist Interview

ナノカーボン材料を
半導体デバイスの基幹材料にする

2015.02.27

佐藤 信太郎 (富士通研究所 基盤技術研究所 機能デバイス研究部 主管研究員)

半世紀にわたって半導体産業、ひいては電子産業全体の驚くべき発展を鼓舞し続けてきた偉大なスローガン「ムーアの法則」がいよいよ終焉を迎えるという声が聞かれるようになった。新材料の投入、3次元構造の導入、新デバイスによる新しい価値の創出・・・。半導体業界は、あの手この手で次の時代を支える基幹技術を模索している。こうした中、次の50年を支える潜在能力を秘める技術の候補と目されているのが、グラフェンやカーボンナノチューブ(CNT)などナノカーボン材料である。グラフェンはカーボン(C:炭素)を平面上に1原子層分だけ敷き詰めた構造の炭素材料、CNTはグラフェンを丸めて直径1nm程度の小さなストローのようにチューブ状に形成した炭素材料だ。ナノカーボン材料のデバイス応用で数々の成果を挙げている富士通研究所 基盤技術研究所 機能デバイス研究部 主管研究員の佐藤信太郎氏に開発の現況と将来への展望を聞いた。

(インタビュー・文/伊藤 元昭 写真/ネイチャー&サイエンス)

なぜ今、ナノカーボンなのか

──CNTやグラフェンなどナノカーボン材料は、半導体デバイスの進化に、どのように貢献するのでしょうか。

半導体デバイスにとって、微細加工技術がもたらしてきたものは、まさにいいことづくめでした。集積度が上がるだけではなく、同時に性能に直結する動作周波数の向上、消費電力の低減、コストの抑制を一度に実現できたのです。しかし、現在は微細化だけでは、半導体デバイスを進化させられなくなりました。新材料の投入や3次元構造の導入などに頼らないと、新しい世代のチップを作ることができなくなったのです。そして今、学会などでは、微細化が止まることを前提に次の技術を議論するようになりました。

現在の半導体デバイスの技術開発には、微細化の継続を図る"モアムーア(More Moore)"、光デバイスや高周波デバイスなどデジタル回路以外のデバイスを考える"モアザンムーア(More Than Moore)"、スピントロニクスなど長年使い慣れた回路素子であるCMOSとは別の素子を使って電子回路を構成しようとする"ビヨンドシーモス(Beyond CMOS)"と、3つの流れがあります(図1)。最も実践的な技術を蓄積している"モアムーア"を主軸にして、ここに"モアザンムーア"と"ビヨンドCMOS"を価値として付け足す方向で、今後半導体デバイスは進化していくのではないか、と考えられています。ナノカーボン材料を利用した半導体デバイスも、こうしたシナリオに沿って技術開発を進め、実用化を目指すことになるでしょう。

これからの半導体デバイスの進化を生み出す3つの流れの図
[図1] これからの半導体デバイスの進化を生み出す3つの流れ
出典:ITRS ERD(Emerging Research Device)-WG in Japan

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