銅とナノカーボンの複合材も有望
──まだまだ、可能性の天井が見えていないのですね。
起こっている現象は解明できていませんが、非常に有用なデータが他にもあります。Cuとグラフェンを組み合わせた複合材を配線に使うことで、Cu配線の弱点を補うことができるという報告があります。微細なCu配線に許容度を超える大きな電流を流すと、断線してしまいます。ただし、Cuの上にグラフェンを積んだ複合材ならば、Cuだけで配線を作った時よりも許容度を上げることができることが分かってきました。
また、産業総合技術研究所は、CuとCNTを組み合わせた複合材でも信頼性が高まると報告しています。伝導率も、CNTだけだとあまり良い結果が得られないのですが、複合材として使うと銅と同程度の値が得られるようです。こうした結果がなぜ得られるのか理由は分かっていません。しかし、現在使っている材料であるCuを補うかたちでナノカーボン材料の利用が始まれば、これを使いこなす技術が徐々に成熟していくのではないかと期待しています。
──ナノカーボン材料は、半導体デバイスをさらに微細化していくためには欠かせない材料になるかもしれませんね。
微細化だけではなく、"モアザンムーア"や"ビヨンドCMOS"に向けた、新しい応用の可能性も続々と提案されています。さらに放熱材としても、補強材としても、光デバイスの材料としても使えます。
例えば、CNTを使って、量子効率が100%以上の太陽電池を構成できる可能性があることが、理論的に示されています。1個の光子から、2対の電子・正孔対を生み出すことができるようなのです。ただし、これはまだ実験的には確かめられていません。また、スピントロニクスの材料としての可能性もあります。CNTやグラフェンは電子のスピンを同じ状態で長い距離伝達できます。これを利用して、現在のCMOSや不揮発性メモリーなどを置き換えるデバイスを作ることができるかもしれません。
私は、ナノカーボン材料は、デバイス形成の基幹材料になるのではないかと感じています。
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Profile
佐藤 信太郎
富士通研究所 基盤技術研究所 機能デバイス研究部 主管研究員。
1988年 | 筑波大学第一学群自然学類(物理学専攻)卒業 |
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1990年 | 筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了 |
1990-1997年 | ウシオ電機株式会社 |
2001年 | 米国ミネソタ大学大学院博士課程 機械工学研究科修了、博士(工学) |
2001年 | 富士通株式会社入社 |
2002年- | 株式会社富士通研究所 研究員 |
2007年- | 株式会社富士通研究所 主任研究員 |
2014年- | 株式会社富士通研究所 主管研究員(現在に至る) |
2006-2010年 | 株式会社半導体先端テクノロジーズ(兼任)。 |
2010-2014年 | 最先端研究開発支援プログラム横山プロジェクトに参加のため独立行政法人産業技術総合研究所に出向。主な研究分野はナノカーボン・二次元材料の合成・評価とその電子デバイス応用。 |
Writer
伊藤 元昭
株式会社エンライト 代表。
富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。