No.006 ”データでデザインする社会”
Scientist Interview

──個人情報保護というイシューは、オープンデータの障害になるのでは、という意見もありますが。

福野 ── 最近は、役所に出す届けに、「新聞社にも告知します」というのをチェックする項目があったりしますよね。同じように、「オープンデータにします」にチェックを入れてくれた人のデータを出すということでいいのではと、考えています。

牧田 ── 担当課の立場としては、地域の住民と接する場面で、オープンデータがどのように使われるかを随時説明する必要があり、その際、担当がうまく説明できない...という話は聞きますね。

福野 ── 冊子などを用意したり、オープンデータをどう理解してもらうか、というのはとても大事な課題です。わたしは、オープンデータというのは、"新しいホームページ"なんだ、という言い方が一つできると思っています。これまでのいわゆる「ホームページ」は、自分以外の人間のためのページで、いまはそれをより拡張し、機械なども含めた幅広いかたちでの情報公開をする、という説明のしかたです。

オープンデータはいま22都市で広まってはいますが、実際にそれを推進しているのは各都市で1人か2人程度。理解している役所の人と、それを「いいんじゃないか」と言ってくれるトップがいるところです。各々のデータを持っている各課の人がオープンデータの意義を理解しているかというと、それはまだまだだと思います。

これまでは、まずはデータをオープンにしましょう、ということでやってきましたが、これからは「使える状態」に持っていくのが課題です。オープンデータをみんなが意識する必要は無いのですが、結果として生活の中で便利に使われる状態をうまくつくることが、さらに拡大することになるかなと思っています。とにかくデータを出す、というフェイズはもう終わっていると思っていて、今あるデータを使って、いかにいいアプリをつくり、市民に喜んでもらえるか、というのを見せる必要があると思います。オープンデータは、バズワードではなく、実際に役に立つことを示すアプリが必要だと考えています。

あと、オープンデータのいいところは、地域を超えて、取り組んでいる人同士がつながることです。ちょうどバスに関して調べていたとき、鳥取でコミュニティバスの実験をしている人たちを見つけました。リアルタイムの位置情報の実験をやっていて、鳥取と鯖江と両方で使えるアプリを開発できるチャンスがあるのです。互いの結果を踏まえて相違点も理解しながら、改善していけると。

各地域でそれぞれ相違点はありますが、共通の課題(たとえば高齢化)もあると思うんです。データが共通で使えるようになっていれば、一緒に課題に取り組むことができる。昔も今も、自治体間の勉強会などはやっていると思いますが、そういった動きがより加速するのではないでしょうか。

オープン化成功の背景にある鯖江の土地の力

──今後の取り組みとしてどういう構想がありますか?

福野 ── 市役所にエンジニア的な人材が居なくてもオープンデータが進む仕組み、というのを来年度から売りだそうと思っています。第一カスタマーは鯖江市さんなんですけど(笑)。エクセルのテンプレートに、データを入れてもらい、エクセルのデータをアップロードさえすれば、オープンデータが完了する、というパッケージです。まずはオリジナリティとかではなく、避難所やトイレ、観光地など、オープンにしやすい、リスクがないデータからはじめてもらうイメージです。「周りの自治体もやっています」という実績があれば、大きな障害も無く進むでしょう。それができるテンプレートを用意し、「わが町はオープンデータやっています」というのを言える状態にする。データがあれば使えるアプリケーションがすでにたくさんあるので、すぐにオープンデータが動くようになる。また、今までと違うのは、「●●が見えるアプリができました」というだけではなくて、オープンなデータのレイヤーも解放されているので、そのデータを使って地元で何ができるか、という「Code For 地元」活動を盛り上げるきっかけにもなると考えています。

──地域だから、地方自治体だからはじめやすいというのもあるようですね。

福野 ── 適度な規模だからやりやすいということはあります。あまりにも小さいと、データも小さくなるのでなかなか難しいところはありますが。鯖江の場合は、市長と市民の間にいろいろな接点があり、その関係性の近さもやりやすい原因の一つです。

また福井県は人口あたりの社長の数が全都道府県で一番なんですが、その県内でも鯖江市はダントツで一番なんです。1500年の歴史を誇る漆器産業があり、その資産を活かしたメガネ産業が近代に発展し、職人魂とアントレプレナーシップの両方を兼ね備えています。人口7万人の小さい町に500社もありますから。

あとは、国産エディタとして極めて評価の高いソフト、"秀丸エディタ"の作者で、「秀まるお」こと斉藤秀夫さんが鯖江でずっと活動をしていたり。サイバーエージェントの藤田社長も鯖江出身です。そして鯖江にある福井高専も、1000人の若いエンジニアを抱えています。

牧田 ── 鯖江の市民意識の高さのようなものもたしかにあります。世界体操選手権の大会運営をボランティアを中心に成功させたり、NPOの活動が盛んだったり。住民投票をこれまで3回もやっていて、市町村合併を拒否し、合併推進派だった市長のリコールを行ったこともあります。合併して大きな都市になるよりも、小さい単位でやったほうがいいんだ、ということを市民自身が選択しています。

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