No.006 ”データでデザインする社会”
Scientist Interview

オープンデータは、社会づくりを市民の手に取り戻す

──お話を聞いていると、パブリックという言葉の意味する領域が、より柔軟に、自然に拡張しているように感じました。

福野 ── 誰でもパブリックな行為ができる、公的な働きができる時代なんですよね。先日、自治体の人たちとパネルディスカッションをやった時に、「10年後のキーワードは?」という話になったのですが、そのときに「全員市長」と答えました。全員が市政に関わる。自分たちの生活のことなんだから、自分たちでやろうよと。当たり前のことを当たり前のようにできる時代に、戻りつつあるのかなと思っています。ちょっと昔だと、全員が行政に関わることは物理的に不可能で、市民全員が一同に会して物事を決めることは無理でした。でも今だったらネット上で全員が一個の議論に参加することは不可能ではありません。その時、市民のあり方は変わると思います。

──「社会づくりを市民の手に取り戻す」と福野さんは表現されていましたが
http://fukuno.jig.jp/515)、それがより普通になってきているのかもしれません。

福野 ── 鯖江はその実現に一番近い町なんじゃないかなと思っています。社長率ナンバー・ワンは伊達じゃないですし。みんないい意味でわがままにものを言う人たちばかりで、不満を言うだけじゃなく、わたしだったらこうすると、自ら率先して行う人たちが多い。そのマインドはかけがえのないものだと思います。Webだってオープンデータだってただの道具なので、使って何かをしようという気が無いと意味がありません。そういうマインドの市民がたくさんいて、それをうまく回す市長がいて、支える野心的なエンジニアであるギークな市役所の人たちがいる鯖江は、これからの新しい町のモデルをつくるのに最適じゃないかと、思います。

Profile

福野 泰介(ふくの たいすけ)

IT企業「jig.jp」代表取締役社長

1978年福井県鯖江市生まれ。小学校3年生の時に初めてコンピュータに出会い、プログラミングに熱中する。

国立福井工業高等専門学校を卒業後、フリープログラマーをしながら21歳の時に起業する。2つの会社を立ち上げた後、2003年に現在の株式会社jig.jp(jig.jpco., ltd.)を設立。パソコン用サイトを携帯電話の画面で閲覧するための、世界初のJavaフルブラウザ「jigブラウザ」を開発。鯖江市の発展に貢献するため、地域プログラミング講座を開設し、地元企業家の交流を目的とした合同会社のアドバイザーを務めている。行政がデータを公開し、民間がウェブサービスやアプリという形で利用できるようにする、「オープンデータ」で日本の最先端を行く福井県鯖江市。鯖江市で公開されているデータは、トイレ、避難施設、駐車場、Wi-Fiスポット、コミュニティバスの運行情報など位置データから、気温、降雪量、人口など統計データ、市議会議員名簿、文化財一覧といったリストまでバリエーションに富む。これらのデータを活用したウェブアプリは、すでに60に達しているという。鯖江市出身の「スーパーエンジニア」である福野氏が、行政に提案し、データ公開を促し、アプリを無償で製作したことで、市はオープンデータへ舵を切った。

Writer

淵上 周平(ふちがみ しゅうへい)

1974年神奈川県生まれ。
中央大学総合政策学部にて宗教人類学を専攻。
編集/ウェブ・プロデュースを主要業務とする株式会社シンコ代表取締役。

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