No.006 ”データでデザインする社会”
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経済

ビットコインは完璧か?

Mt.Goxの一件が報じられたとき、「Mt.Goxの破綻」を「ビットコインの破綻」のように捉えた人もいるかもしれないが、それは誤解だ。Mt.Goxの破綻の後も、多くの取引所が運営を継続しているし、ビットコインのシステムそのものが攻撃されたわけではない。

しかし、本当にビットコインは安全なのだろうか。ビットコインの信頼性は、前述のPOWにより守られているように見えるが、これについて、警鐘を鳴らす識者もいる。

慶應義塾大学SFC研究所 上席所員(訪問)の斉藤賢爾氏は、「安全だという前提がすでに崩れている」と指摘する。

ビットコインでは、もし攻撃者のCPUパワーが他の善良なマイナーのCPUパワーを上回ったときに、改ざんが可能になるというのは前に述べた通りだ。過半数を握るという意味で、これを「51%攻撃」と呼ぶ。ビットコインの信頼性は、「敵対するよりも味方になった方が得」という経済的な合理性にもとづいているが、敵対した方が得になるケースも考えられると斉藤氏は危惧する。

「ナカモト論文が発表された当時と違い、現在はビットコインの亜種がたくさん登場している。そこでコインをたくさん持っている人は、ビットコインを潰したら価値が上がって儲かるかもしれない。もし本当に悪意を持った人がいたら、いろんなことができる可能性がある」(斉藤氏)

それでも51%のCPUパワーというのはハードルが高いと思うかもしれないが、現在、ビットコインのCPUパワーは巨大なマイニングプール*4による寡占化が進んでおり、一時、最大手のCPUパワーが40%を超えたことがあった。もちろん、マイニングプールが悪意を持っていたら、という仮定の話ではあるが、51%というのは決して非現実的な数字とは言えないだろう。

2014年3月14日のCPUパワー分布(推定)の写真
[写真] 2014年4月30日のCPUパワー分布(推定)。上位3者でほぼ過半数を占める。

銀行預金の場合、日本には預金保険制度があり、たとえ銀行が破綻したとしても、預けておいたお金は上限があるものの保護される。またキャッシュカードのスキミング等により、預金が不正に引き出された場合も、用件を満たせば補償されることが多い。だからこそ安心してお金を預けておけるわけだが、ビットコインの場合には、こうしたユーザー保護の仕組みが一切用意されていないのも不安材料だ(ただ、これは制度の不備であって、技術の問題ではない)。

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