No.006 ”データでデザインする社会”
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経済

ビットコインをどう評価すべきか

ビットコインを取引所に預けておくと、Mt.Goxのようになることがあり得る。不正に送金された場合、それを取り返すことは難しい。かといって、自分のPCでウォレットを作り、管理するにしても、脆弱性を突かれて盗まれる危険性はある。ウォレット(秘密鍵)のバックアップを作成しておかないと、PCが壊れたり、紛失した場合に、自分のビットコインであっても、使うことができなくなってしまう。

ビットコインでは、秘密鍵を無くすと打つ手がないという大きなリスクが存在するが、これに関しては技術的に修正不可能な問題ではないという。「たとえばPGP(Pretty Good Privacy)暗号*5のような方式を採用すれば、人間で識別できるようになるので、もし秘密鍵を紛失しても、新しい鍵ペアを発行して置き換えられる。私が開発して2004年より運用している地域通貨『i-WAT』では、実際にこの方式を実装している」(斉藤氏)。

このように、いろいろ問題もあるビットコインではあるが、一方で、黎明期の技術を見て将来の可能性を全て否定するべきではない、とも思う。それは誕生したばかりのインターネットを見て「こんな遅いものは使い物にならない」と言っているようなものかもしれない。しかしその後、ご存じのように、インターネットは社会に不可欠なインフラに成長した。

ビットコインのような仮想通貨には、社会を大きく変える可能性がある。もともとお金というものは、インターネットとの親和性が高い。いまの生活を考えてみると、給与は銀行振り込み、買い物の多くはクレジットカード、電車に乗るときはSuica等を使っている。この間、手元で物理的な通貨は全く動いておらず、お金の情報がやりとりされているだけだ。その先にあるものが仮想通貨であっても、何ら違和感はない。

今後、ビットコインが改良されていくのか、それとも、より画期的な仮想通貨が登場してビットコインに取って変わるのかは分からない。未来を予想することは難しいが、リアル通貨以上に安全で使い勝手が良い仮想通貨とは何か、またそのためにはどんな法律や制度が必要になるのか、議論が深まっていくことを期待したい。

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Bitcoin
https://bitcoin.org/

[ 脚注 ]

*1
ハッシュ関数:入力値が1ビットでも違えば、出力値(ハッシュ値)が大きく変化するよう考えられている関数。入力値からハッシュ値を計算するのは簡単だが、逆にハッシュ値から入力値を求めるのは事実上不可能とされる
*2
公開鍵暗号:公開鍵と秘密鍵のペアを用いる暗号方式。暗号化と復号化に使う鍵が別なので、安全性が高いとされている。1つの鍵で暗号化と復号化を行う共通鍵暗号だと、相手に共通鍵も渡す必要があり、傍受される恐れがある。
*3
Aさんのデジタル署名は、Aさんだけが知っている秘密鍵で暗号化されている。このペアとなる公開鍵は公開されているので、これを使って復号できれば、確かにAさんが署名した証明となる。
*4
マイニングプール:個々人のCPUパワーを集め、集団でマイニングを行なうグループ。現在、マイナーが増えて全体のCPUパワーが向上した結果、個人レベルではどのようなハイエンドPCを投入しても、マイニングで報酬を得ることが不可能になっている。そのため「マイニングプール」に参加し、集団としてより大きなCPUパワーを形成して、報酬を分け合うのが一般的になっている。
*5
PGP(Pretty Good Privacy):暗号方式の一種で、電子メール等で広く利用されている。公開鍵暗号方式と共通鍵暗号方式を組み合わせることで、高速で安全な暗号化を実現した。利用者のメールアドレス等をユーザーIDとして指定できる。

Writer

大塚 実(おおつか みのる)

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は『人工衛星の"なぜ"を科学する』(アーク出版)、『小惑星探査機「はやぶさ」の超技術』(講談社ブルーバックス)、『宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1』『宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2』『技術を育む 人を育てる 日本の宇宙産業Vol.3』(日経BPコンサルティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min

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