No.006 ”データでデザインする社会”
Cross Talk

冷徹でシビアなAmazonの業態

津田 ── 最近、ビッグデータの話題でなるほどと思ったのが、Amazonと楽天の差です。

協調フィルタリング*22でレコメンドをしているAmazonは、利用するとよくできていて、なかなか精度がいい。机を買った人に「あ、この机ですか? じゃあこんな椅子がありますよ」みたいに、ちゃんと欲しいものをレコメンドしてくれるんですね。

新井 ── 5年ぐらい前だとAmazonもレコメンデーションの精度は実に低くて「どうしてこれを私に推薦してくるの?」みたいなことがありました。でも、データが蓄積されたことで、分析の精度がすごく上がっていますよね。

私がAmazonという業態に対して思うのは、人工知能に対しての幻想が非常に少ないことです。

津田 ── 少ない?

新井 ── ええ。だからこそ「機械ができることに関しては、機械に徹底的にさせる」いう考え方がある。

津田 ── 機械に何かの判断を任せないという意味ですか?

新井 ── いえ、そういうことではありません。彼らは「機械にできることを中心に業態を作っている」のです。

まずは、機械にできることを見極める。その後、業態の中心に機械を置き、機械ができないところに人間を配置するという具合に、すごくクールでシビアな業態の作り方なんですね。

津田 ── 全てがシステマチックですからね。

新井 ── 情報推薦や在庫管理は、機械がある程度できることなので、機械を中心に作ってあります。

それに対して、例えば本を売る場合、出版社があらすじなりオススメの情報なりを勝手に作成してくれるだろうとAmazonは思っています。人の労働力をタダで動かせるクラウドだと捉えている。

でも、その労働にコストが掛かるとみんながやりません。だからそのインターフェイスを優しくしているんですね。人に優しいインターフェイスとは、その人から無償の労働を引き出せるものでもあるのです。

Amazonのインターフェイス設計やデータ処理を見ていると、顧客のためというよりは、機械と人間、両者の最適化の見極め方がシビアだなと感じます。

津田 ── 新井さんは「Amazonは人工知能的なものに対する期待がない」とおっしゃいましたが、逆にそういう期待をして失敗した例はあるのですか?

新井 ── 楽天のビジネスは成功していると思いますが、例えば楽天の文章を見ると、それぞれのお店が自分の好きなようにHTMLを書いています。その中から、ユーザーがスムーズに検索ができるような状態にするには、IT投資がすごく掛かるのではないかと思います。

Amazonはそのフォーマットがカッチリしています……だから買い物がつまらないとも言えるんですが。つまり「機械は言葉を読めない」と最初から考えているんじゃないでしょうか。

津田 ── 楽天にしてみれば、顧客は人間なんだからカッチリしていなくても修正して見てくれるだろう、という期待もあるんですね。

新井 ── でも、そうすると情報にたどり着くまでに時間がかかってしまう。情報が整理されていないので、サッと買いたい人にとっては楽天のインターフェイスはとても辛い。

おそらく楽天は、ショッピングの楽しみや驚きといったものを重視しているのでしょう。Amazonは、利用者が必要なものを必要な条件でササッと買えるとか、適切にレコメンドされるとか、そういうことに重点を置いていますから。

機械にも人間性を見たい日本人

津田 ── 今は日本企業よりも、Amazon、Apple 、Facebook、Googleといったアメリカの企業が強く、世界を席巻しています。そこに日本とアメリカの国民性は影響しているのでしょうか。

新井 ── 両者はおそらく機械に抱くイメージが違いますよね。日本だと、同じ人であっても、工作機械のようなものと、「ドラえもん」のようなヒューマノイドという、2つのイメージがあるように思います。

アメリカのビジネスマンは、ヒューマノイドに対する期待が低い。「何で人の格好をしていなきゃいけないんだ?」と言うのは、キリスト教の影響もあるとは思います。

人というのは代替しがたいというか、人のように機械を作って、それが友達になる幻想をあまり抱かない。そんなことをやると少しクレージーな研究者といった扱いさえされる。ただしアメリカ人も機械への関心自体は大きいので、両者の違いは面白いです。

津田 ── AIBOやASIMO*23が日本のメーカーから出てきたというのはいかにもですね。

新井 ── すごく日本っぽい。何にでも心が宿ると思っているところがあるじゃないですか、日本人って。石のようなものでも擬人化したり。

津田 ── 八百万の神ですからね。

新井 ── 人工知能に対しても、何かヒト的なものを見たいという気持ちが日本人は強いのかなとか、研究を通じてさまざまなことを感じます。

[ 注釈 ]

*22
協調フィルタリング: 購買行動のような嗜好データを元にユーザー同士の相関を分析して、ユーザーが好むであろう商品を推論、レコメンデーションなどを行うシステム。米ゼロックスのパロアルト研究所が1992年に発表した「タペストリー」が最初期のもの。
*23
ASIMO(アシモ): 本田技研工業が開発し、ホンダエンジニアリング株式会社が製造する二足歩行ロボット。2000年に発表、現在も改良が続いている。2011年には自律行動制御技術を搭載。
http://www.honda.co.jp/ASIMO/

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