No.006 ”データでデザインする社会”
Cross Talk

検索アルゴリズムを変えたGoogle

新井 ── もう1つ関心があるのは、なぜGoogleは毎回ソーシャルメディアに失敗する*34のかです。これは面白い現象だと思っていて、Google+*35はどうしてあんなにダメなんでしょう。

津田 ── きっとGoogleは、ソーシャルなものにあまり価値がないと思い続けていたからではないでしょうか。情報を整理することが彼らの社是、理念としてあるわけですね。それに対してTwitterは整理されていないけれど、それが強さになっている。

実際、僕はGoogleで検索をする回数が減っています。Twitterを検索に使うからです。新商品のレビューとか、今起きていることを知りたいなら、Googleで検索するよりもTwitterで検索を掛けた方が自分が欲しい情報、今話題になっていることを早く見つけられる。

そういう風にリアルタイム検索が普及した結果、Google自体も変わってしまいました。Googleの良さって、価値がある情報であれば、古かろうが新しかろうが、基本的には上に来るページランク*36の技術だったのに、今は新しい情報を優先するんですね。

その結果、「5年前の資料を拾いたい」とか「10年前の情報をWebで読みたい」というときに使い物にならなくなってきている。Googleも迷走している感じがします。

新井 ── 同感です。リアルタイム検索がいいから、それにシフトをさせようとアルゴリズムをいじると、思ってもいない副作用があるものです。

Google画像検索の場合、情報が溜まりすぎたのかなと思うんですが、欲しい情報を掘り出すのが難しくなっています。やっぱり、膨大なゴミの情報に引っ張られがちになっちゃうんでしょうね。

津田 ── Googleが一番使いやすかったのって10年ぐらい前だなって。

新井 ── 私もアルタビスタ*37の代わりに出てきた頃が素晴らしかった気がします。

津田 ── 今は仕方なく3つを使い分けています。日常的な検索はGoogleでこと足りるけれども、専門的に掘ったり、多様な意見を見つけたい場合、最新の情報を見つけたいときには、もうTwitterです。

もう1つ、今これから役に立つのは、新聞社のデータベース*38ですよ。新聞社の生き残る道は、この検索サービスじゃないでしょうか。

Googleだと全然見つからない、でも新聞社の有料データベースで全文検索を掛けると「あ、そうそう。このことを知りたかったんだ」という情報が見つかるというサービスに可能性があるんじゃないかと思うんです。

新井 ── 今は検索をかけようとしたときに「あのとき見た、あのページを見たい」とうろ覚えで入力しても、なかなか出てこないことが結講あります。キーワードが少しでもズレていたら、絶対に探せない。それは、連想するものと関連語が繋がっていないからですね。

そのあたりさえ少し良くなったら、検索の地図が一気に書き変わる可能性があると思っています。

対談を終えて

新井 ── 今日まさかネットコモンズまで聞かれるとは思っていませんでした。ネットコモンズは、おそらく日本の教育機関で最も導入されているソフトウェアなのですが、アカデミアでは全然認められない。「それ、何の分野ですか?」みたいに聞かれてしまう。

津田 ── 正しく評価できる物差しがないということなんですね。

新井 ── 誰も納得してくれないんです。「なんで新井さんは、数学者なのにネットコモンズや人工知能をやられてるんですか? 脈絡が分かりません」みたいに。でも社会の変化につれて学問的な関心が移るのは、流れとして自然なことですよね。

津田 ── 情報関係だってすごく変わっているわけですからね。

新井 ── 同じ時代を生きてきた中で、おそらく社会科学的な関心が強いと津田さんのようなお仕事ぶりになって、それがたまたま数学をやっている私だとこういう流れになるのかなと思います。

津田 ── 僕がなぜインターネットやWebが好きかというと、やはり知が共有されるダイナミズムの過程で、あり得ないことが起きるから。それこそSTAP細胞論文の検証*39みたいなできごとでは、今回ネットが一番リードしていました。

新井 ── そうですね。difff(デュフフフ)*40か何かに掛けて、検証が行われたりしたのが今どき風でしたね。

津田 ── 旧来のジャーナリストにはできないことですよ。2ちゃんねるなどの検証サイト*41で研究者が匿名で検証したりして、すごい勢いをみせたのにはインパクトがありました。

その結果をマスメディアが後追いするという流れができたという意味で、良し悪しは両方ありますが、やはり何か変わってきたなと思いますよね。

[ 注釈 ]

*34
Googleは毎回ソーシャルメディアに失敗する: 2009年に発表されたものの普及せず、翌年に開発を中止したGoogle Waveや、2010年にスタートしてGメールとの連動で批判を浴びたGoogle Buzz(Google+ に一本化されて2011年にサービス終了)などを指す。
*35
Google+(プラス): 2011年からグーグルが提供するSNS。日本では著名人や芸能人グループがファン交流に使う事例が多く、独自の展開を見せるが他社サービスに利用者数では水を開けられている。
*36
ページランク: あるWebページがどれだけ重要なものかを決定するアルゴリズム。スタンフォード大が特許を持つ技術であり、グーグルの商標。他の重要度の高いサイトにどれだけ引用されているかが、基本的な概念。グーグルでは検索に対して、ページランクの高いページを上位に表示する方式をとってきた。
*37
アルタビスタ: 1995年に公開された米国の検索エンジン。2004年にはYahoo! 傘下に入った。2013年にサービス終了。
*38
新聞社のデータベース: 「少し前まで読売新聞社の『ヨミダス文書館』を使っていて、それは1986年以降の記事を全文検索できたんですね。コンシューマ向けのサービスをやめて企業向けになり、すごくガーンという感じですけれど(個人向けサービスは2014年1月終了)。安価で便利に利用できたので、3,000円以上するのにショボい新聞のデジタル版とかやるぐらいなら、こういう全文検索サービスだけ1,000円で使わせてくれよ、と思うんです。今は1年か2年分しか検索できませんから」(津田氏)
*39
STAP細胞論文の検証: 2014年1月、理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーらが英国の科学誌「ネイチャー」電子版に発表した論文。その後、ネットを中心に論文の不備が相次いで指摘され、STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)は存在するのか議論を巻き起こすとともに、STAP現象の検証が予定されている。
*40
difff(デュフフフ): 2004年に完成したテキスト比較ツール。2つの文章の差分を表示する。日本語と英語に対応。 http://difff.jp
*41
検証サイト: 研究者が匿名で意見交換できる海外の投稿サイト「PubPeer(パブピアー)」による査読で、早くに疑問が指摘され始めたとされる。
http://pubpeer.com

Profile

新井紀子(あらい のりこ)
※写真左

国立情報学研究所 社会共有知研究センター
センター長・教授

東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学卒業、イリノイ大学大学院数学科修了。博士(理学)。専門は数理論理学(証明論)・知識共有・協調学習・数学教育。

2006年より総合研究大学院大学 複合科学研究科情報学専攻 教授、国立情報学研究所 情報社会相関研究系 教授。2008年より国立情報学研究所 社会共有知研究センター センター長。

2001年より、教育機関・公共機関向けの情報共有基盤システムNetCommons(ネットコモンズ)を開発。現在、3000を超える機関でポータルサイトやグループウェアとして活用されている。

2009年より、学術研究情報の循環型情報活用基盤システムResearchmapを開発、2011年にResearchmapとJSTが提供するReaDを統合、ReaD&Researchmapとして提供している。

2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタを務める。

主著に『ハッピーになれる算数』『生き抜くための数学入門』(イーストプレス)、『数学は言葉』(東京図書)、『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)など。

http://researchmap.jp/arai_noriko/
http://21robot.org

津田大介(つだ だいすけ)
※写真右

ジャーナリスト、メディア・アクティビスト

1973年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。大阪経済大学客員教授。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師。株式会社ナターシャ取締役、株式会社ゲンロン社外取締役。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。

J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター。NHKラジオ第1「すっぴん!」パーソナリティー。テレ朝チャンネル2「ニュースの深層」キャスターなど。

早稲田大学社会科学部在学中よりIT関連のライターとして執筆活動を開始(1997~)。有限会社ネオローグ設立・代表取締役(1999~)。ブログ「音楽配信メモ」を開設(2002~)。ジャーナリスト活動を開始(2003~)。株式会社ナターシャ設立・取締役(2006~)。2007年より、Twitterアカウント(@tsuda)を開設。

メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」の創業・運営にも携わる。「ポリタス」編集長。

世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。インターネット投票サイト「ゼゼヒヒ」で第17回メディア芸術祭 エンターテイメント部門 新人賞受賞。

主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。

2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

http://tsuda.ru/

Writer

神吉 弘邦(かんき ひろくに)

1974年生まれ。ライター/エディター。
日経BP社『日経パソコン』『日経ベストPC』編集部の後、同社のカルチャー誌『soltero』とメタローグ社の書評誌『recoreco』の創刊編集を担当。デザイン誌『AXIS』編集部を経て2010年よりフリー。広義のデザインをキーワードに、カルチャー誌、建築誌などの媒体で編集・執筆活動を行う。Twitterアカウントは、@h_kanki

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