No.006 ”データでデザインする社会”
Cross Talk

技術と製品が出そろった2006年

津田 ── 僕がここ3~4年で思ったのが、ガラッと情報環境が変わったということです。今のITを象徴するキーワードは、1つがスマホ。もう1つがソーシャルメディア。そしてクラウド。この3つがあるわけですけど、ほとんど全部2006年か07年に出ているんですね。

Twitterは06年に始まり、翌年にだんだん知られるようになった。Facebookはもう少し古くからあるんですが、一般に開放されたのは同じ06年なんです。

考えてみると、07年の1月にiPhoneが発表されて、Androidも同じ年に出ている。イーモバイルのように外でブロードバンドに接続できるようなサービスが出てくるのも同時です。

また、エリック・シュミット*28が初めてクラウドコンピューティングと言ったのが06年あたり。全てのデータをクラウドに置いて、誰でも、どんな端末からも簡単にアクセスして使えるようになると提唱しました。

今ではコンシューマレベルで当たり前のようになった要素技術は、すでに2006年に出ていたんです。それが2010年もしくは11年の震災も含めて、一気にコモディティ化したということだと思います。

新井 ── そうですね。

津田 ── コモディティ化したと同時にビッグデータという考え方が出てきて、ここ2年ぐらいバズワード(流行語)になっている。スマホ・ソーシャルメディア・クラウド・ビッグデータみたいなものが一気に出て、我々の情報環境を圧倒的に変えたことは、新井さんの研究にはどう影響したのでしょうか。

新井 ── そうですね。ネットコモンズをつくった当時は、公開することが第一目的で、とにかく発信することに価値があるという感じでした。

いまは価値のある情報がそうではない情報の中に埋もれてしまい、掘り出すのが大変な時代になりました。ビッグデータはあっても掘れなかったら意味がない。「これは宝の山なんですよ」と言っても、掘るのにコストが掛かりすぎたら使いようがないんです。

その際には2つの方法論があると思っています。1つは、あらかじめ検索できるようにテキストを加工するリンクド・オープンデータ*29的な考え方。もう1つが、公開された素の状態のテキストを読めるようにする人工知能的な考え方。おそらく両方が必要だと思うんです。

3年前に人工知能のプロジェクトを始めたのは、そのうちリンクド・オープンデータだけでは済まなくなる、素のテキストを検索できる基盤技術がないと困るという動機からです。

LINEに疲れた中高生がTwitterへ

津田 ── Twitterに関して言うと、今、日本のユーザーは大体2,000万人ぐらいです。もっと伸びるといいとは思っていましたが、大体それぐらいに落ち着いています。

でも、衰退しているということもない。友達同士のプライベートなやり取りはFacebookやLINE*30で、ニュースなどの情報の流れはTwitterで、という棲み分けがなされているようです。

新井 ── 若い人はもうLINEに流れていますよね。LINEはクローズドなので、情報が外に出てこない。パブリックに流れてほしい情報、例えば「火事があった」みたいな情報が流れにくくなるんだろうと危機感を持っています。

2ちゃんねる*31の利用者が中年以降が中心になったのと同じく、Twitterも実はメインのユーザーが30代後半以降になっているんじゃないかという気がしています。

津田 ── 僕も全く同じことを感じていたんですが、面白いものでITには揺り戻しがあって、ここ半年ぐらいで女子高生にTwitterブームになったんです。

新井 ── なぜでしょうか?

津田 ── 1つはツイキャス*32というTwitterと連動するネット動画がブームを起こしているということ。もう1つ、LINEはあの「既読*33」というコミュニケーションは便利だけど、一方で疲れるようなことがある。もっと気軽な方がいいねという動機で、女子高生はまたTwitterを使い始めているようですよ。

新井 ── なるほど。LINEは何か苦しいなと思っていたのですが、そういうことなのかもしれませんね。

津田 ── LINEは電子メール的なんでしょうね。だから今、中高生が新しいTwitter文化を生み出しつつあります。こういう現象は今までのWebサービスにはなかったと思うのです。

[ 注釈 ]

*28
エリック・シュミット: 1955年生まれ。グーグル元CEOで現在は同会長。C言語による字句解析器生成プログラム「lex」の共同開発者。
*29
リンクド・オープンデータ: 自然言語で記述された文書のハイパーリンク構造である現在のWebに対して、構造化されたデータ同士をリンクさせることで、コンピュータ処理に適したWeb構築を目指す技術の相称。
*30
LINE: 2011年に韓国で開発されたインターネット通話・メッセージアプリケーション。2012年からゲームアプリも提供。2013年に全世界で利用者が3億人に達した。iOS、Android、Windowsフォンほかに対応。
*31
2ちゃんねる: 1999年に西村博之氏がオープンした日本語のインターネット掲示板。スレッド(話題ごとに書き込まれる投稿群で1000コメントで終了)へ投稿があるたびに上位に表示されるシステムが特徴。匿名によるコミュニケーションが、犯罪予告のような社会問題としてクローズアップされることが多いと同時に、後につながる多くのネット発文化を育んだ。
http://2ch.net
*32
ツイキャス: Twitterのアカウントを持つユーザーが、ライブストリーミング映像を配信できるサービス。正式名称はツイットキャスティング。2010年開始、モイ株式会社が運営。「差し入れ」と呼ばれる独自のポイント制、低画質の手軽さが特徴。対応言語は日本語、英語、ポルトガル語。
http://twitcasting.tv
*33
既読(きどく): メッセージの受信者がいつメッセージを読んだか、メッセージの送信者が確認できる、電子メールの開封通知に近いSNSの機能。FacebookやLINEなどに実装されている。既読が表示されたにも関わらずメッセージを返さない状態を「既読スルー」などと呼んで嫌う風潮がある。コミュニケーションが未成熟な二者間では、年齢層を問わずトラブルが絶えない。

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