Science News

人間の直感力は、
スーパーコンピューターを超える

2011.12.18

Foldit
Folditでは、マウスを使ってアミノ酸の鎖をドラッグ&ドロップし、安定した状態をつくっていく。

エンターテインメントであるゲームが、最先端科学の難問を解決するツールとして活用されるようになってきている。
米カーネギーメロン大学のLuis von Ahn博士は2005年頃から”Human Computation"のコンセプトを提唱し、多数のユーザーがちょっとした作業やゲームをすることで、科学やIT分野に有用な成果を得られる仕組みをつくってきた。例えば、reCAPTCHA。多くのWebサイトでは、判読しにくい文字を読み取らせて人間かどうかを判別する、CAPTCHAという仕組みを使っている。reCAPTCHAは、この人間ならではの判別能力を書籍のデジタル化に応用した。reCAPTCHA対応サイトでユーザーが文字を判読して入力するとその結果が自動的に集積され、コンピューターの文字認識精度を向上するために使われる。
よりゲーム性を高めたプロジェクトとしては、銀河の画像を分類する"Galaxy Zoo"や、遺伝子解析をFlashゲームにした"Phylo"などがある。

CAPTCHA
解読しにくい文字を入力させ、人間であることを判読するCAPTCHA

生化学の分野では、2008年に米ワシントン大学の開発した「Foldit」が人気を博している。これはタンパク質の構造解析を行うパズルゲームだ。
タンパク質はアミノ酸の連なり(ポリペプチド鎖)でできており、その配列と折りたたまれ方が解明されてはじめてタンパク質の性質がわかる。そして、さまざまなタンパク質の構造がわかれば、病気に有効な治療薬を作る手がかりにもなる。だが、ポリペプチド鎖の折りたたまれ方には複雑なルールがあり、スーパーコンピューターを使ってもそうそう易々と解けるものではない。それを人間の直感力で解いてもらおうというのが、Folditというわけだ。
Folditでのプレイヤーの使命は、表示されるポリペプチド鎖を動かしてタンパク質としてあるべき形にすること。幹となる主鎖はできるだけ内部の隙間が小さくなるように、枝である側鎖同士は干渉しすぎないように距離を空けて……とマウスで鎖を動かして鎖を折りたたんでいく。ルールに合致するパターンを作るほど、高いスコアが得られる。
2011年9月、"Nature Structural & Molecular Biology"に掲載された論文では、Folditプレイヤーの協力によって、HIV(エイズウイルス)治療薬を開発するために必要となる酵素プロテアーゼの構造が解析されたことが発表された(酵素もタンパク質でできている)。科学者が10年かかって解けなかった難問を、科学知識のないプレイヤーたちは3週間で解いてしまったのだ。論文には、科学者たちと並んで"Foldit Contenders Group"、”Foldit Void Crushers Group"というFolditプレイヤーグループの名称がしっかりクレジットされており、ゲームを活用したHuman Computationの成果がアカデミズムの世界でも認められたといえよう。

(文/山路達也)

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