No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

連載01

ダウンサイジングが進む社会システムの新潮流

Series Report

第3回
「働くクルマのダウンサイジング」で農業と建設、物流に革新を

2021.2.19

文/伊藤元昭

「働くクルマのダウンサイジング」で農業と建設、物流に革新を

稲刈りに使うコンバインや工事現場で整地に使うブルドーザ、さらには長距離トラックなど、一般に働くクルマの多くは乗用車よりも大きい。それらの操縦には極めて特殊な技能が必要になる。ところが、少子高齢化が進む日本はもとより、世界中でそうした働くクルマを操る人材が不足してきている。農業や建設、物流は、人が生きていくため、豊かな生活を支えるために必要不可欠な産業だ。その営みに欠かせない働くクルマを、より効果的かつ効率的に運用する技術が求められている。こうした要求を背景に、自動車の進化を後押しするために開発された技術を働くクルマの進化に応用し、車両のダウンサイジングとスマート化(知能化)を推し進めて課題解決を図る取り組みが進んでいる。社会システムの中の様々な場所で起きているダウンサイジングの潮流がもたらすインパクトを紹介する本連載。第3回の今回は、働くクルマのダウンサイジングについて解説する。

自動車業界では、百年に一度と呼ばれる大変革が進行している。「コネクテッド(Connected:C)」「自動化(Autonomous:A)」「シェアリング&サービス(Sharing & Service:S)」「電動化(Electric:E)」という4つの切り口で、クルマの機能や構造と自動車ビジネスに変革をもたらす、CASEトレンドである。自動車業界は巨大産業だ。そこで起きている大変革には、莫大なヒト・モノ・カネが投入され、通常ならば長い時間がかかる進化や、とても実現しないような技術開発が一気に進んでいる。人工知能(AI)や高度なセンサーを駆使した自動運転システム、高効率・大出力モーターとその駆動回路、新型電池などで構成される電気駆動システムなどは、その代表例だ。

自動車(乗用車)業界向けに劇的な進化を遂げた時代を先取りする技術は、自動車(乗用車)業界以外の製品開発にも転用され、様々な分野に大変革の連鎖を起こしつつある。波及している先の代表が、農業機械(農機)、建設機械(建機)、運送用トラックなど、いわゆる「働くクルマ」の分野である(図1)。働くクルマと言うくらいだから、自動車(乗用車)向け技術を転用することはたやすい。CASE時代の技術を応用することで、農機・建機・運送用トラックの車両は「ダウンサイジング」し、働く環境を自動認識して自律的に動くスマートなロボットへと変貌を遂げつつある。そして、働くクルマの利用シーンの拡大が実現し、さらには応用業界の業務を一変させるほどのイノベーションを生み出す可能性が出てきている。

[図1]CASEトレンドに沿った自動車の進化を後押しする技術を転用して、働くクルマをイノベーション
作成:伊藤元昭
写真:Adobe Stock、Harper Adams大学、鹿島、Starship Technologies
「CASEトレンドに沿った自動車の進化を後押しする技術を転用して、働くクルマをイノベーション

働くクルマの大型化の狙いは操縦者の作業効率向上

アメリカやオーストラリアなどの大規模農場で動く超大型コンバインや、道路の建設などで利用される大型ブルドーザやショベルカー、長距離運送で利用される大型トラックなど、働くクルマと言えば大型機械を思い浮かべる人も多いことだろう。これまで、働くクルマの多くは、車両を大型化することによって1台で大きな仕事を一括実行できるようにし、作業の効率化が図られてきた。

ただし、大きな仕事をしたいのならば、小さな機械を大量投入しても同じことができるのではないか。こうした素朴な疑問を抱く人もいるかもしれない。10トンの荷物を運ぶのならば、10トントラック1台ではなく、5トントラック2台でもよいはずだ。

しかし、効率性を考えると、これまでの働くクルマの機能では、大型化した方が明らかに作業効率は良かった。なぜならば、動かす機械1台1台に、操縦者を乗せて動かす必要があったからだ。小さな機械を大量に投入するためには、それだけ多くの操縦者を用意する必要がある。つまり、働くクルマの利用効率を上げるためではなく、働くヒトの作業効率を高めるために大型化する必要があったのだ。

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