連載02
アスリートを守り、より公平な判定を下すスポーツテクノロジー
Series Report
第1回
根性論ではもはや勝てない
2020.12.21
スポーツの良さは、全てのアスリートが公平な条件で競い合うことだろう。互いに切磋琢磨するところに、スポーツマンシップが生まれる。ただし、ストイックに切磋琢磨するだけでは、身体を壊してしまったり、大事な本番で力を発揮できなかったりすることもある。また、可能な限り相手チームや選手の持つ特性や実績データを確認することも、練習に加えて勝つために重要な要素である。第1回では練習だけではなく、実績データを把握することの重要性や、新しい知見を生み出すテクノロジーを紹介する。第2回ではオリンピックなどの大会に自分のピークを持っていくテクノロジー、第3回では公平さを追求するテクノロジーを紹介する。
スポーツにおいて、一生懸命に走り、筋肉を鍛え、体を鍛える練習が、強くなるための基本であることに変わりはない。
従来は、人一倍練習することが強くなるための唯一の方法だと考えられた。野球の練習では、毎日1000本のノックを受けてボールをキャッチする1000本ノックと言われる方法がもてはやされた。素振りも毎日1000本、2000本と回数を増やすことでボールを捉える技術が高まると言われた。回数が少なければ根性がないとみなされた。
もちろん、技術が未熟な間は、練習量が成果につながるだろうが、ある程度技術を習得し、アスリートにふさわしい身体ができると、さらに伸ばすための知恵が重要になってくる。どのような技術で相手を負かすのか、その最適条件は何かと、知恵を絞らなければ成果を出せない。相撲の力士が対戦相手のビデオを何度も見ることは、自分の得意な相撲の形に持っていくための研究となる。
アタマで考え、データを使う
ビデオ録画機は、ある意味で勝つためのテクノロジーだと言える。ビデオを見ながら相手の弱点を見つけ、自分の得意な形に持っていけば勝率が上がる。ビデオを見ずにひたすら練習だけしていても、実際に対戦して弱点を突かれ、自分の相撲を取らせてもらえなければ、負けてしまうことになる。つまり、活用できるテクノロジーが手に入るようになったのであれば、それを活用しない手はない。もはや根性を優先して練習だけをしていればよいという時代ではない。
自分が勝つためにどうすべきかという課題を、アスリートが考え、使えるテクノロジーを導入し、勝つための有利な条件を知り、学習して習熟できれば勝てる確率は高くなる。かつてはこのテクノロジーが筆記用具のノートであり、パソコンだった。その代表例が野村克也氏が用いたデータ野球だ。
相手チームの選手の癖や特長を克明にメモしておき、データべースとして貯めておく。投手の場合、相手バッターがどのようなボールに強いか弱いかを押さえておき、弱点を突くようなピッチングをすれば、封じ込める確率が高まる。