No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

連載01

ダウンサイジングが進む社会システムの新潮流

Series Report

第2回
「病院のダウンサイジング」で、健康状態を常に見守りすぐに治療する

2021.1.20

文/伊藤元昭

「病院のダウンサイジング」で、健康状態を常に見守りすぐに治療する

病気の診断や治療は、医師など専門的な知識やスキルを持つ人たちだけが担う特殊な仕事だった。ところが、そうした状態のままでは近未来の持続的社会の姿が描けなくなった。世界中の国々は例外なく、医療費の高騰や社会保障費の増大に頭を悩ませている。また、少子高齢化が進む日本では、医療サービスを受ける人が増え、提供する人が減ることが確実だ。病気にかからないための効果的なヘルスケア、病気になっても重篤化させない医療が求められている。こうした背景から注目されているのが、医療・ヘルスケアでのウェアラブル機器の活用である。医療現場だけで使われていた専門的な検査機器を小型化(ダウンサイジング)し、スマートウォッチなどウェアラブル機器に、その機能を組み込んで、生活者一人ひとりが自ら健康維持に取り組むことを促す。社会システムの中の様々な場所で起きているダウンサイジングの潮流がもたらすインパクトを紹介する本連載。第2回の今回は、病院のダウンサイジングについて解説する。

電子技術やITなどテクノロジーが、医療とヘルスケアの世界に、大きなイノベーションを生み出しつつある。法制度の観点から実用化に向けたハードルはあるものの、医師など専門家だけが担っていた高度な診察や治療をシステムを使って行うことができるようになってきた。これによって、専門家の領域だった医療と、一般人が行う日々のヘルスケアの境目は徐々になくなりつつある。イノベーションを生み出す技術トレンドのキーワードは、医療とヘルスケアの「デジタル化」と「IoT化」、そして「ダウンサイジング」である(図1)。

[図1]「デジタル化」「IoT化」「ダウンサイジング」をキーワードとして、医療とヘルスケアにイノベーションが起きつつある
作成:伊藤元昭
写真:Adobe Stock
「デジタル化」「IoT化」「ダウンサイジング」をキーワードとして、医療とヘルスケアにイノベーションが起きつつある

どんな人でも、自分が健康であり続けることを願っているものだ。傍目に不健康な生活を送っているように見える人でも、健康を維持するための生活習慣やケアが面倒なだけで、決して進んで病気になりたいとは思っていない。

加えて、日本は少子高齢化社会に突入し、人々の健康維持が社会課題にもなってきた。病気にかかり、症状が重篤化すれば本人が辛いだけでなく、社会で負担すべき医療費や周囲の支援負荷も増す。厚生労働省がまとめた「平成28年度 医療費の動向」によれば、同年の医療費は何と41兆3000億円。目前に迫る本格的な少子高齢化社会では、社会保障費がますます増大することが確実である。

専門家の世界だった医療・ヘルスケア

自分のため、社会のため、まずは病気にかからないことが肝要だ。日々の生活の中で、私たち自らが適切なヘルスケアをできる仕組みが、これまでにも増して求められている。また、重篤化を防ぎ、治癒を助ける仕組みもますます重要になってきている。

ところが、効果的なヘルスケアや、効率的な医療の実現は簡単ではなかった。専門的知識が必要で、一般人が適切に判断・行動することが極めて難しかったからだ。雑誌記事やテレビ番組、さらには口コミを通じて雑多なヘルスケア情報が紹介されてはいるが、そうした情報は玉石混交の状態。適切なヘルスケアを実践するためには、どうしても専門家の知恵を借りるしかなかった。医療に関しては、さらに深い専門性が求められ、定期的な健康診断や検査、診断、さらには治療、予後のリハビリなど、医療に関わるあらゆる判断や行為が専門家の手に委ねられている。

専門性の高い、医療・ヘルスケアに関わる判断や行為を、一般の人々が日々の生活の中で気軽に行うことができるようにすること。少子高齢化社会の中、社会システムを維持し、豊かな生活を送るためには、そのための仕組みづくりが欠かせない。電子技術やITなどテクノロジーによる、医療とヘルスケアのイノベーションは、まさにこうした時代の要請に応えるものだ。

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