Expert Interviewエキスパートインタビュー
eスポーツが生み出した熱狂のしくみとは
2021.2.19

コンピュータ・ゲームでありながらスポーツという表現が伴う「eスポーツ」。技を極めたプレーヤーたちが対戦するeスポーツは、今や多くのファンが観戦する対象となっている。何が人々の関心や熱狂を誘うのか。スポーツと呼ばれるゆえんは何か。eスポーツの変遷と現状を調査し研究してきたMIT(マサチューセッツ工科大学)のT.L. テイラー教授に、eスポーツの成り立ちやテクノロジーとの関連について聞いた。
異なった感性を包含する概念
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── まず「eスポーツ」をどう定義しますか。
私自身はeスポーツを「形式化、組織化されたゲーム競技」とみなしています。「形式化」という表現を加えるのは、ゲーム競技と言っただけでは、どんなタイプのコンピュータ・ゲームも含まれてしまうからです。eスポーツが異なるのは、ほぼスポーツ競技のような形式化された枠組みがゲーム競技を包み込んでいるところです。ゲームは全て相手との戦いを意味するわけですが、こうした戦い以外の要素がeスポーツを成り立たせているのです。
── これも基本的な質問ですが、eスポーツでの競技は複数のプレーヤーが一つのゲームの中で戦うことが条件でしょうか。
それもeスポーツのプレーヤーたちがよく話すポイントです。というのも、eスポーツ以前はリアルタイムで人間相手に戦うことがほとんどなかったからです。コンピュータ・ゲームでの対戦相手は恐竜であれチェスであれ、ほとんどの場合コンピュータですから。プロのプレーヤーたちは、人間、あるいは人間チームを相手にして戦うこと自体がeスポーツの真骨頂だと言います。
── すると、必然的にファイターなり恐竜なり、対戦相手が操る登場キャラクター同士が対決することがeスポーツの条件ということでしょうか。
そこもまた理解が必要です。eスポーツというのは大きな概念で、様々なジャンルのゲームを含みます。例えば、当初私が調査に行ったeスポーツのトーナメントで話を聞いたのは、1対1で勝負する『スタークラフト(StarCraft)』のプレーヤーでした。彼は「僕たちはeスポーツのチェス選手のようなもの」と言っていました。その彼が部屋の向こうで『カウンターストライク(Counter-Strike)』というゲームに興じているプレーヤーたちを指差して、「一方、彼らはサッカー選手だ」と言うのです。カウンターストライクは5人対5人のチームで戦うゲームで、大きなエリアにキャラクターが散らばっています。ゲームによっては、ただ相手を倒すことではなく、敵の基地を破壊するなどが勝敗の目安となったりします。ですから、同じeスポーツと言ってもそこには異なった感性があり、プレーヤー構成も違っているのです。