連載01
ダウンサイジングが進む社会システムの新潮流
Series Report
第1回
「発電所のダウンサイジング」で、エネルギーの効率的利用を可能に
2020.12.21
発電所や医療用診断装置、農機・建機など、これまでサイズが大きく、特定の場所に設置して利用されていた、インフラや産業機器のような社会システムの小型化(ダウンサイジング)が進んでいる。20世紀後半、研究所などで一部の専門家が利用する装置だったコンピュータが、半導体の進化によって、ダウンサイジングし、現在のパソコンやスマートフォンが生まれた。ダウンサイジングによって、単に小さなスペースに置けるようになっただけでなく、装置の利用シーンや社会に与えるインパクト、そして私たちの生活も一変した。同様に、今、社会システムを対象にして起きているダウンサイジングの潮流によっても、近未来の生活や社会が大きく変わる可能性がある。本連載では、第1回は「発電所のダウンサイジング」、第2回は「病院のダウンサイジング」、第3回は「働くクルマのダウンサイジング」という、3つの分野での新潮流を解説し、私たちの生活や社会を、どのように変える可能性があるのか考える。
たとえ機能に大きな違いがなかったとしても、製品のサイズが変わるだけで、その利用シーンや社会に与えるインパクト、さらにはその製品の本質まで一変してしまう場合がある。
コンピュータはダウンサイジングで存在意義が一変
工業製品のサイズの変化が、現代社会に大きなインパクトをもたらした代表例は、コンピュータであろう(図1)。電子素子を利用して計算するコンピュータは、黎明期には極めて大型で、専門家が特殊な用途に利用する装置だった。1946年にペンシルベニア大学が開発した、有名なデジタル・コンピュータ「ENIAC」は、1万7468本の真空管を使って、アメリカ陸軍の研究所で弾道計算をすることを目的に作られた。その大きさは幅30m、高さ2.4m、奥行き0.9mで、総重量27トンと巨大だった。当時の報道記事では「Giant Brain(巨大頭脳)」と呼ばれていたという。まさに、限られた専門家だけが、特殊な目的で使う、巨大な装置だった。
ところが、電子素子が真空管から、トランジスタ、IC、マイクロプロセッサへと進化することで、莫大な数の素子を小さな半導体チップの中に収めることができるようになった。そして、コンピュータは、指数関数的な飛躍的性能向上を遂げ、同時にダウンサイジングしていった。1974年には、初めてのパーソナル・コンピュータ(パソコン)と呼ばれる「Altair 8800」が登場し、卓上に置ける個人が所有可能な装置になった。それまで特殊な用途だけに利用していたコンピュータは、パソコンへと進化したことで、税金計算やゲームなど、個人的な作業や趣味に利用できるようになった。
2007年には、Appleがスマートフォン「iPhone」を発売。高性能なコンピュータを、誰もが、肌身離さず持ち歩く日常機器に変えた。現在、私たちがスマホを使って何をしているか振り返ってみよう。メールの送受信やSNSでの会話、好みのレストラン探し、ゲームのプレイなど、パソコンの利用シーンに比べて、より個人的で日常的な目的に使っているように感じる。巨大で特殊な装置だったコンピュータは、ダウンサイジングによって、個人的な作業に日常的に利用できるツールに変わった。