連載02
アスリートを守り、より公平な判定を下すスポーツテクノロジー
Series Report
第3回
公平な判定を実現するテクノロジーと今後の展開
2021.2.19
テクノロジーの向上は、競技を公平に行うためのツールとなりつつある。スタジアムの死角をなくした360度カメラや、選手と一緒に動くカメラなど、新しいテクノロジーの導入により、人間の眼では判定できないシーンも判定できるようになってきた。さらに八百長や不正を排除できるというメリットもある。連載最終回は、これまで人間の目では判定が難しかった場面にテクノロジーを応用して、より公平な判定に利用する技術について解説する。
スポーツでは1/100秒単位の競争がつきまとう。大相撲では、二人の力士が土俵際でどちらの身体が先に土俵から出るか土につくかで決まる。行司や審判員の視線によってはよくわからない角度もある。もし、土俵の周り360度に十数台のカメラを配置し、それらの映像を瞬時に見ることができれば、死角がなくなり公平な判定ができる。また、最新の高速度撮影が可能なカメラなら1/100秒の差を見分けることも可能。これを使えば、人の目には同体にしか見えない勝負も見分けることができる。
こういった技術はテニスやサッカーなどで使われつつある。テニスでは、相手のボールがライン上にあるかないかの判定を審判に求めることのできる「チャレンジ」という制度がある。チャレンジを要求すると、相手の打ったボールがライン上にあるかないかを判定するビデオ映像を公開してくれる。
人間の審判では限界がある
どのようなスポーツでも、従来は審判という人間が判定していた。ただ、人間が判定する以上、誤審はつきものだ。野球では、ストライクかボールの判定や、外野の両サイドのポールの付近をボールが通過する場合のホームランかファウルの判定、送球が速いか足がベースに到着する方が速いかといったアウト/セーフの判定など、きわどいケースが多い。ホームに駆け込む選手が回り込んでホームベースにタッチするというケースでは、キャッチャーが選手にタッチする方が速いか、選手がホームにタッチする方が速いか、360度から見なければ判定は難しい。審判は必ず判定を下さなければならないが、自分が見た状況でしか判定できない。時にはそれが誤って見えることがあり、監督が審判に駆け寄ったり、乱闘になったり、スポーツマンシップから大きくずれてしまうケースもある。
一方、選手側でもわかりにくい、スポーツマンシップに反する行為もある。サッカーでは、ファウルを受けていないのにわざと倒れ込むとか、ペナルティエリアで大げさに倒れて、PK(ペナルティキック)を得ようとする行為を「シミュレーション」と呼ぶが、これは主審を欺く行為である。フェアプレイの精神に反する行為なので、警告に当たるが、判別しにくいことが多い。
テクノロジーは360度の撮影・合成
このため、テクノロジーを活用して、公平に判定し、スポーツマンシップに反する行為を監視することができるシステムが望まれていた。人間が判断する場合は視点が限られている。そこで、カメラを使って、スタジアム全体を360度カバーし、どこからでも見ることができるようにしたのが、イギリスのHawk-Eye Innovations社(ホーク・アイ:鷹の目)が開発したビデオシステムだ(参考資料1)。スタジアム全体を死角なく見ることができるように、数十台のカメラを配置して、それらの映像を合成し、グラフィックスでボールなどの対象物を再生する(図1)。
不正も見抜く
360度のどの角度からもボールの動きを捉えることができるため、野球であれば、ポール際のファウルかホームランかの判定は容易にできる。守る選手と走る相手チームの選手との陰で、どちらが先にベースに届いているか、というきわどい判定でさえも、周囲をぐるりと、しかも時間と共に見ることができるため、容易に判定できる。
サッカーのシミュレーションの行為に対しても、相手チームの選手が何も触れていないのに倒れることも容易に見破ることができるため、こういったテクノロジーを使えば、不正な行為はできなくなる。