人工光合成は、
本物の葉っぱにどれだけ近づいたか
2011.12.18
光合成は、生命の神秘だ。植物(光合成を行う植物以外の生物もいるが)の備える葉緑体の中では、光エネルギーを使って水が分解され、ATP(アデノシン三リン酸)という形でエネルギーが蓄えられる(これを明反応という)。そして、明反応でできたATPを使い、二酸化炭素と水から糖を合成するのが暗反応だ。無機物から有機物を生み出し、酸素をつくる(なお酸素をつくらない光合成もある)。光合成がなければ、人類も地球上に存在していない。
光合成を人工的に再現する「人工光合成」は、人類の夢であり、これまでにも数多くの研究者がチャレンジしてきた。光エネルギーを変換して利用するということでいえば、太陽電池も人工光合成の一種といえる。すでに1970年代には、東京大学の本多健一博士、藤嶋昭博士が、酸化チタン電極に紫外線を照射することで水を水素と酸素に分解する「本多-藤嶋効果」を発見していたが、エネルギー源として使えるほどの効率を達成することはできなかった。
ところが、近年になって人工光合成に近づく研究の発表が相次いでいる。産業技術総合研究所の佐山和弘氏は、酸化タングステンとドープ型チタン酸ストロンチウムという2つの光触媒を使うことで可視光を使った水の完全分解に成功した。佐山氏が開発した「光触媒・電解ハイブリッドシステム」では、太陽エネルギー変換効率は0.3%を実現している(ちなみに、太陽電池の太陽エネルギー変換効率は15%、トウモロコシを使ったバイオマスでは1%程度)。
2011年9月には、MITのDaniel Nocera教授らが"Artificial leaf"、つまり「人工葉」と名付けた技術を発表した。これはシリコン半導体の板で、表と裏に特殊な触媒が塗ってある。この人工葉に太陽光を当てると、葉の表と裏から酸素と水素が発生する。産総研と同じくMITの研究も、太陽光で水を分解して水素を発生させ、燃料電池などに使うことを想定している。
Nocera教授らの人工葉は安価な材料でできており、4リットル弱の水で開発途上国の住宅1軒に1日分の電力を供給できるという。太陽電池は電気の形でエネルギーを取り出すが、人工光合成の「葉」では水素という利用しやすい燃料としてエネルギーを蓄えられる点にメリットがある。
上記の研究は明反応の再現だが、同じ2011年9月には、豊田中央研究所が「水と二酸化炭素のみを原料にし、太陽エネルギーで有機物を合成する」ことに成功したと発表した。合成されたのは蟻酸というごく単純な有機物だが、葉緑体の暗反応に一歩近づいた意義は大きい。