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融ける壁がビルを冷やす

2012.2.13

固体が液体になる際に周囲から熱を吸収する氷は代表的な相転移物質(PCM)
固体が液体になる際に周囲から熱を吸収する氷は代表的な相転移物質(PCM)だ。
Photo Credit: aithom2

氷が融けるように、融けて建物を冷やす壁がある。
固体が融けて液体になる、こんな身近な現象には「相転移」という物々しい名前が付いている。固体が液体になる際に周囲から熱を吸収し、同じ熱を放出することで液体から固体に戻る。こうした性質を持つ相転移物質(PCM:Phase Change Material)は古くから知られているが、最近ではより室温に近い温度で使えるPCMの開発が活発化しており、幅広い分野での応用が進んでいるのだ。例えば、NASA宇宙服のグローブ素材として開発されたOutlastは、衣服のほか、寝具やカーペットに使われるようになった。
米Phase Change Energy Solutions社のbioPCMは植物油からできており、建物の壁や天井に使われている。夜間の外気で冷やされたbioPCMは固体になり、日中に暖まると融ける。厚さ1.25cmのbioPCMは、厚さ25cmのコンクリートと同等の断熱効果がある。
PCMは太陽熱発電への応用も注目されている。太陽熱発電などの設備では、熱を蓄えるために溶融塩(塩や酸化物などを高温で溶かして液体にしたもの)が使われているが、そのために必要な溶融塩は大量だ。独SGL Carbon社では、従来の溶融塩に比べて容積を2/3程度に抑えられる相転移物質を開発中である。
また、ワクチンを冷却して輸送するために現在は氷が使われているが、冷凍設備の整っていない途上国では長期間の保存・輸送が難しい。米Sonoco社のPCMは4℃で相転移するPCMを使って、ワクチンを6日間にわたって冷却するソリューションを開発した。
現時点でPCMの市場は極めて小さいが、Lux Researchの推定によれば、2020年には1億3000万ドルの市場に育つという。

(文/山路達也)

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