Science News

しなやかな超伝導体が新たな用途を切り開く

2012.2.27

フラーレンを原料にした糸状の結晶
フラーレンナノウィスカーは、フラーレンを原料にした糸状の結晶で、さまざまな長さのものを作製できる。
Photo Credit: 独立行政法人物質・材料研究機構

電気抵抗がゼロになったり、物体を魔法のように空中で止めたりできる不思議な現象、超伝導。だが、超伝導は、実験のインパクトの割になかなか実用化が進んでいない分野でもある。現在のところ、実用化されているのはリニアモーターカーの電磁石や超伝導ケーブルなどに限られている。
超伝導の応用がなかなか進まない理由の1つは極低温だ。転移温度(Tc)が液体窒素の沸点、絶対温度77K(マイナス196℃)を下回る超伝導体は、高価な液体ヘリウム(沸点が絶対温度で4K、マイナス296℃)で冷却しないと超伝導状態にならない。
もう1つの壁は、超伝導体の加工の難しさだ。1986年に登場した銅酸化物の超伝導材料は初めてTcがマイナス196℃を超えて大きな話題を呼んだが、これはセラミックであるため硬くてもろい。住友電工がこの超伝導体で超伝導ケーブルを実用化するまでに20年の歳月が流れている。
しかし、2011年末に、物質・材料研究機構(NIMS)が発表した物質は、超伝導の可能性をさらに広げることになりそうだ。NIMSはナノサイズのカーボン素材であるフラーレンナノウィスカーを超伝導化することに成功したのである。
フラーレンは多数の炭素原子が結びついた同素体(同じ種類の原子からなる物質)で、カーボンナノチューブやサッカーボール状のC₆₀が知られている。フラーレンが超伝導体になることは知られていたが、これまでの反応法では1日かけても原料のフラーレンから1%以下の超伝導体しか得ることができなかった。
NIMSではカリウムを使った新しい反応法を開発し、原料フラーレンナノウィスカーの100%を1日で超伝導体にすることに成功した。このフラーレンナノウィスカー超伝導体は、細長いファイバー状になっており、束ねることで糸状、布状にできる。現在のところ、フラーレンナノウィスカー超伝導体のTcは17Kであるため液体ヘリウムによる冷却が必要になるが、今後セシウムなどのアルカリ金属を用いることでTcも上昇すると期待されており、まったく新しい超伝導の応用技術が生み出される最初の一歩になる可能性がある。軽くてしなやかな布状の超伝導体は、現代の魔法のカーペットになるのだろうか?

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.