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瞬時に止血するMITのナノテク絆創膏

2012.3.12

トロンビンの3次元形状
MIT(マサチューセッツ工科大学)が開発した止血剤には、血液中の凝固成分トロンビンが含まれている。図はトロンビンの3次元形状を示す

身近な医療用品でも技術革新は起こり続けている。例えば、絆創膏。最近では傷を乾かさず、体液を保持したまま治癒するタイプの絆創膏が人気を博している。
戦場においては、状況はもっとシビアだ。可能な限り短時間で止血を行い、兵士の生存率を上げなければならないが、止血帯だと首やその他の部位には適さない。血液を凝固させるタンパク質のフィブリンを使った包帯は保管期間が短く、ゼオライトの粉末を振りかける方法は強風だと使えない。病院で使われる高吸収性ゼラチンスポンジは、使う前にトロンビン液に浸しておく必要がある。
2011年12月にMIT(マサチューセッツ工科大学)が発表したコーティング技術は、究極の絆創膏を作り出すことになりそうだ。研究チームは、スポンジに止血剤をコーティングしておいて必要な時にすぐ使える方法を編み出した。
この方法のポイントは、ナノスケールのバイオコーティング技術によって、2つの異なる層をスポンジに吹き付けたことである。血液にはトロンビンという凝固成分が含まれているが、1つの層はこのトロンビンでできている。もう1つの層はお茶にも含まれるタンニン酸だ。この2つを層状にすることで、活性化した状態のトロンビンの薄膜が作られることがわかった。また、この方法だと繊維の中もコーティングできるため、従来よりも多くの止血剤をスポンジに染みこませておける。
さらに、この止血剤を吹き付けたスポンジは数ヶ月間保管できる上、傷の形状に合わせて成形することもできる。 動物実験では、ガーゼの当て布を12分間しても止血できなかった傷が、止血剤を吹き付けたスポンジを当てて60秒間軽く押さえただけで止血できた。止血剤に使われている材料はすでにFDA(米国食品医薬品局)の認可を得ているため、早期に実用化される可能性も高い。
研究チームでは、今後止血剤と抗生物質の両方を組み合わせたスポンジも開発する予定だという。

(文/山路達也)

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