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マグネシウム電池が無電化村に灯りをともす

2012.3.26

シンプルな構造のマグネシウム空気電池
シンプルな構造のマグネシウム空気電池。インドの工場では手作業で生産する予定とのこと。

これまでになかったタイプの電池が、世界の貧困地域を照らすことになりそうだ。その電池とは、マグネシウム空気電池である。空気中の酸素と金属のマグネシウムを反応させるマグネシウム空気電池は、理論的にはリチウム一次電池を大きく上回るとされてきたが、これまで実用化されてこなかった。大きな理由の1つは、放電反応が進むにつれマグネシウムの表面に酸化皮膜ができ、反応がある程度以上進まなくなってしまうからである。
アクモホールディングスは、被膜形成を抑制する材料を独自に開発。金属マグネシウムが持つ容量の9割を取り出せる、マグネシウム空気電池の開発に成功した。この電池は、マグネシウム板、セパレータ、不織布、集電体の銅板を重ねたシンプルな構造をしており、そのままでは放電しないため長期間の保存が可能だ。電池に水を垂らすと不織布から電解液が溶け出し、放電が始まる。反応後に残るのは人体に無害な酸化マグネシウムであるため、環境負荷も低い。
独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)は、アクモホールディングスのマグネシウム空気電池事業をビジネス・パートナーシップ構築支援事業として採択。同社は、2012年7月頃からインドでの現地生産を目指す。
電池は5cm×5cm×数mm程度で、マグネシウム金属板が4層含まれる。電池1つでLED電球を80時間点灯できる性能を目標としており、無電化村での夜間照明としての用途を想定している。環境負荷が低く、長時間使える電池によって、貧困地域での雇用促進、識字率向上などが期待できる。同社では、将来的にバングラデシュやアフリカへの展開も予定しているという。

(文/山路達也)

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