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「熱」を使って、超高速のデータ記録を行う

2012.4.2

瞬間的にレーザーパルスを当てることで、磁界を使わずに磁極を反転させることに成功した。
瞬間的にレーザーパルスを当てることで、磁界を使わずに磁極を反転させることに成功した。
Photo Credit : Richard Evans, University of York

ハードディスクドライブなどの磁気記録装置では、磁界を使ってデータの記録を行う。例えば、ハードディスクの記録ヘッドにはコイルが入っており、電流を流すと磁界が生じる。磁界が生じたヘッドを記録面の磁性体(磁気を帯びやすい物質)に近づけると、磁性体上の小さな磁極(N極とS極)が反転し、情報を記録できる。磁界が強いほど、記録速度は早くなる。これが一般的な磁気記録の原理だ。
ところが、ヨーク大学 Thomas Ostler博士らの国際研究チームはまったく新しい方法で磁気記録を行う方法を発見した。それは磁界ではなく、「熱」だ。
研究チームは、鉄とガドリニウムの磁性体に対してレーザーパルスを60フェムト秒(1フェムト秒=1000兆分の1秒)照射し、磁性体内の鉄、ガドリニウムの磁極を反転させることに成功した。磁極の反転が完了するのに要した時間は5ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)以下であった。磁界を利用せずに、熱だけを用いて磁気記録が行えることを示したのは、世界初である。
研究チームによれば、この技術を用いることで数テラバイトのデータを1秒で記録できる可能性があるという。これは現在のハードディスクよりも数百倍高速だ。さらに、電流を流して磁界を作る必要がなくなるため、従来に比べて消費エネルギーも低減できる。
この技術は基礎研究のレベルだが、従来信じられていたのとはまったく異なる原理で磁気記録が行えることを示した意義は大きい。現在、パソコンだけでなくデーターセンター*1においても、ハードディスクからフラッシュメモリへの移行が進んでいるが、熱を使った超高速データ記録技術はこうした分野にも大きな影響を与えることになりそうだ。

(文/山路達也)

[ 脚注 ]

*1
データーセンター:各種のコンピューター(メインフレーム、ミニコンピューター、サーバ等)やデータ通信などの装置を設置・運用することに特化した施設の総称。

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