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宇宙のガスステーション計画の行方はどうなる?

2012.4.30

SISのコンセプト
SISのコンセプト。対象の衛星にドッキングして、推進剤の補給を行う。
Photo Credit:MDA on-orbit servicing

人工衛星の中でも、我々の生活に密接に関わっているのが、静止衛星だろう。静止衛星は、赤道上空約36000kmの静止軌道を地球の自転とほぼ同じ周期で公転しており、そのため地上から見ると、空の一点に静止しているように見える。こうした性質によって、放送・通信、気象観測などの用途に静止衛星が用いられ、静止軌道には各国の人工衛星がひしめいている。静止軌道は極めて貴重な宇宙資源なのだ。そのため、寿命に達した静止衛星は、さらに高度の高い廃棄軌道に移される。
静止衛星の寿命を決める最大の要因というのは、実は衛星に搭載できる推進剤の量だ。衛星の軌道や姿勢を調整するためには、アポジキックモーター(推進剤を反応させて噴射するロケットエンジン)が使われる。推進剤がなくなると、他の機材が使える状態であってもその衛星は廃棄するしかなくなってしまう。
カナダのMDA社は、2010年初頭に「SIS」(Space Infrastructure Servicing)のコンセプトを発表した。SISはいわば宇宙のガスステーションとでもいうべき宇宙船で、静止軌道上に存在する通信衛星の推進剤補給を行うというもの。SISは対象となる衛星のアポジキックモーターとドッキングして、推進剤を注入する。これによって、静止衛星の寿命を低コストで延ばせるというのがMDAの主張である。
2011年3月にはインテルサット(国際電気通信衛星機構)が最初のパートナーとなり、2015年にはSISの打ち上げが可能になると発表された。しかし、インテルサットに続くパートナーは現れず、インテルサットも2012年1月には計画から離脱してしまったため、計画頓挫の可能性が高まった。2012年2月、MDAはDARPA(米国防総省国防高等研究事業局)との契約が結べるかどうかで、計画の棚上げを判断すると発表している。
なお、静止衛星の寿命を延ばす他の方法としては、ViviSat社が提唱するMEV(Mission Extention Vehicle)がある。対象の衛星とドッキングするのはSISと同じだが、MEVは推進剤を注入するのではなく、MEV自身の推進システムで衛星の高度制御を行う点が異なる。ViviSat社は、MEVは技術的にシンプルで成功率が高いと主張している。

(文/山路達也)

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