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水素をギ酸に変えて、安全に貯蔵・運搬

2012.5.7

水素をギ酸に変えて、安全に貯蔵・運搬
常温常圧の水中で、二酸化炭素(CO₂)と水素ガスを反応させてギ酸(HCO₂H)に変換できるようになる。また、ギ酸を分解することで、二酸化炭素と水素を取り出せる。
Photo Credit : 独立行政法人 産業技術総合研究所

太陽光発電などで生み出した電力を使って水を電気分解し、水素を取り出す、その水素を燃料にして自動車などを動かす……。エネルギーを貯蔵するための物質として水素を使う「水素社会」のアイデアは昔から提案されてきたが、現在のところ実現には至っていない。大きな理由は、水素を貯蔵・運搬することの難しさと、エネルギー変換効率にあった。
エネルギー密度の低い水素を自動車の燃料として使うためには、700気圧もの高圧をかけなければならない。また、液体水素にするためには、超低温にする必要があるため、現実的ではない。
産業技術総合研究所の太陽光エネルギー変換グループと、米ブルックヘブン国立研究所の研究は、これまでとは違った形で、水素によるエネルギー貯蔵を実現するかもしれない。
研究グループが開発したのは、水素(H₂)からギ酸(HCO₂H)を生成する触媒だ。ギ酸は常温で液体であり、エネルギー密度も高いため、貯蔵物質として優れている。
この触媒を使うと、常温常圧の水中で、二酸化炭素(CO₂)と水素ガスを反応させてギ酸に変換できるようになる。また、ギ酸を分解することで、二酸化炭素と水素を取り出せる。反応の向きは、pH(酸性、アルカリ性の度合い)で制御することができる。
これまでにも二酸化炭素と水素を反応させてメタノールやギ酸に変換するプロセスが研究されてきたが、大量のエネルギーを使う高温高圧条件が必要だった。また、水素を取り出す際、燃料電池を劣化させる一酸化炭素が同時に生成されることも問題であった。
今回の触媒によって、少ないエネルギー消費で水素を貯蔵できるようになり、なおかつ一酸化炭素が出さずにギ酸から水素を取り出せるようになる。
研究グループは今後、触媒のさらなる高効率化と低コスト化を目指すという。

(文/山路達也)

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