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レーザーポインターで、
Wi-Fi代わりの安価な可視光通信システムを実現

2012.6.18

レーザーポインター
普通のレーザーポインターが高速な無線通信システムに生まれ変わる。

Wi-Fiは手軽で高速な通信手段だが、病院内のように電波の利用が制限されている場所もある。かといって、USBや有線LANを使おうとすると、ケーブルの取り回しが面倒だ。こうした用途に使える無線通信方式として、人間の目に見える波長の光を使う可視光通信に注目が集まっている。可視光通信のうち、特に実用化が進んでいるのはLED照明の可視光を使って情報を伝送するというもの。例えば太陽誘電株式会社は100Mbpsの通信速度で、伝送距離が2mのシステムを発表している。
一方、台湾の国立台北大学のHai-Han Lu博士らは、レーザーを使った低コストな可視光通信システムを2012年4月に発表した。
この通信システムで使われたのは、プレゼンテーションなどにも利用されている、赤と緑の安価なレーザーポインターだ。研究チームはレーザーポインターのバッテリーを取り替えて1秒間に5億回の点滅ができるようにした。
送りたいデータは赤と緑の光の点滅パターンに変換され(波長分割多重方式(WDM)と呼ばれる技術を使う)、これを10メートル離れたところにある受信機が受ける。受信機の受け取った光は増幅回路で増幅された後、信号処理を行うフィルタに通されて元のデータが再現される。信号の送信エラーは10億ビットあたり1個以下と、高品質な通信ができることが確認された。10億ビット/秒(1Gbps)という通信速度は、現在広く使われているUSB2.0の2倍に当たる。試作装置の制作コストは、600US$程度で収まったという。また、10メートルの伝送距離は可視光通信としてはかなり長い上、機器を持ち運びやすいというメリットもある。
今回発表された通信システムは、大気の状態が不安定な屋外や長距離伝送には向かないが、屋内で手軽に高速通信システムを構築する際には魅力的なソリューションになりそうだ。

(文/山路達也)

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