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七色のレーザーを発するナノマテリアル

2012.6.25

コロイド量子ドットによるレーザー発振のデモンストレーション。
コロイド量子ドットによるレーザー発振のデモンストレーション。

色鮮やかな映像がディスプレイに映し出される時、そこには必ず「光の三原色」に応じた素子が使われている。例えば、液晶ディスプレイの画素を拡大してみると、赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)という3色のカラーフィルターが1組になって、1つの画素を構成していることがわかる。RGBのすべてが点灯していると白、すべて消えていると黒、RとBが点いていたら紫、GとBなら黄という具合に、3色の混ぜ合わせ方でほとんどの色が表現される。
近年注目を集めている「レーザーディスプレイ」でも仕組みは同じだ。レーザーを発振して表示を行うレーザーディスプレイは、携帯型のプロジェクターやテレビ、自動車などのヘッドアップディスプレイ、あるいは網膜に直接投影するヘッドマウントディスプレイへの応用が期待されている。赤、緑、青、各色のレーザー発振装置の低コスト化により、研究が加速してきた。
これまで、各色のレーザーを発振する素子は、それぞれ別の材料から作る必要があった。ところが2012年4月、米Brown大学Cuong Dang博士らの研究チームは赤、緑、青のレーザー光を単一材料で発振できるナノマテリアルの結晶化に成功した。
このナノマテリアルは、コロイド量子ドットと呼ばれるナノスケールの粒子。カドミウム(亜鉛属の元素。人体には有害でイタイイタイ病の原因にもなったが、顔料、電極、めっき材料などとして広く工業分野で用いられる)とセレン(セレニウムとも呼ばれる元素。金属セレンには半導体性や光伝導性があり、コピー機の感光ドラムやカメラの露出計などに使われる)でできた核を、亜鉛、カドミウム、硫黄からなる合金が覆い、有機分子で固めて作られている。製造時間を調整することで、このナノ結晶のサイズを変えられる。核が4.2nm(1ナノメートル=1/100万分ミリメートル)は赤、3.2nmなら緑、2.5nmなら青の光を発振できる。素子ごとに材料を変える必要がないため、従来よりも素子の製造コストを下げられる。これまでにもコロイド量子ドットを使ってレーザー素子を作ろうという試みはあったが、今回の研究では結晶の構造を変えることで、従来に比べてレーザーを発振するために必要なエネルギーが1/1000になったという。今後、ますますレーザーディスプレイの開発に弾みがつきそうだ。

(文/山路達也)

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