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失った視力を取り戻す、光駆動の網膜インプラント

2012.7.2

失った視力を取り戻す、光駆動の網膜インプラント
網膜インプラントによって、視力を回復できる可能性が見えてきた。

テクノロジーの進歩により、視力を失った人々が再び光を取り戻せるようになりつつある。
そのうちの1つが、網膜へのインプラントだ。黄斑変性症や網膜色素変性症といった目の病気を発症すると、網膜の視細胞が損傷を受けて時には失明に至る。しかし、視細胞に損傷があってもその奥にある視神経には問題がない場合もある。2010年、ロンドンのOxford Eye HospitalとKing's College Hospitalは、長年全盲状態にあった2人の患者の網膜に超小型の電子チップを埋め込み、光を感じたり、ものの形がわかるようにした。目に入った光を、インプラントのチップが受けて、電気的な信号を発生させる。この信号が視神経を伝わり、脳に到達したのだ。
ただし、このインプラントを駆動させるにはバッテリーが必要だった。耳の後ろの頭皮にバッテリーを取り付けて、網膜内のインプラントとケーブルで接続するため、非常に複雑な構造になってしまっていた。
スタンフォード大学の研究チームは、こうした問題を解決するため、光で駆動する新しい装置を開発した。この装置は、網膜インプラントと専用メガネで構成される。専用メガネに取り付けられたビデオカメラが映像を撮影すると、そのデータをメガネに搭載されたコンピュータが処理し、赤外線のビームに変換して網膜インプラントに照射する。網膜インプラントは太陽電池と同じような仕組みになっており、赤外線ビームを電気信号に変えて視神経に伝える。赤外線ビームに変換して照射するのは、自然光そのままだと網膜インプラントを駆動させるには弱すぎるからだ。
原理自体はOxford Eye HospitalとKing's College Hospitalの研究と同じだが、バッテリーと網膜インプラントをケーブルで接続する必要がないため、手術が容易になり、患者の負担も少なくなる。この装置はラットで実験が行われて、きちんと動作することが確認された。将来的には、インプラントのみで専用メガネが不要になる可能性もあるという。

(文/山路達也)

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