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目に見えない「透明マント」光学素子が、
映像機器を変える

2012.7.9

プラズモニック・メタマテリアルの拡大写真
プラズモニック・メタマテリアルの拡大写真。左下から右上に伸びる明るい線は、シリコンナノワイヤーの金のナノ粒子で覆われていない部分で、光が散乱している。一方、金のナノ粒子で被われた、その他の領域は光の散乱がほとんどないことがわかる。

透明マントはSFやファンタジーの定番アイテムだが、これを現実にするかもしれない技術がさまざまな研究機関で開発されている。
スタンフィード大学とペンシルベニア大学の研究チームが作成したのは、「透明マント」のような光学素子だ。この素子は、プラズモニック・メタマテリアルという人工光学物質を用いている。プラズモニック・メタマテリアルというのは、金属の微細な構造体を、特定の物質と組み合わせたもの。金属の構造や比率を変えることで、物質の光学的な性質を制御して、自然界にはない特性を持った物質を作り出すことができる。
研究チームは、シリコンのナノワイヤーを金のナノ粒子で覆ったプラズモニック・メタマテリアルを開発。光の波長よりも小さい金のナノ粒子によって、シリコンナノワイヤーの光学的な性質を変化させた。ナノワイヤーに吸収される光の量はわずかに減るが、光の散乱を100分の1に抑えることで、観察者の方向からナノワイヤーの向こう側は見えるが、ナノワイヤーそのものは見えなくなる。つまり、ナノワイヤーは「透明マント」を着たような状態になるという訳だ。
研究チームは、このプラズモニック・メタマテリアルが可視光(人間の目に見える光)領域で有効なこと、さらに光の角度やナノワイヤーの形状や配置にもよらないことを示した。また、金だけでなく、アルミニウムや銅でも同じ効果が得られることがわかった。
透明マントがすぐに実現できるわけではないが、「目に見えない」プラズモニック・メタマテリアルは、幅広い分野での応用が期待されている。代表的な応用例には、光学センサーがある。例えば、デジタルカメラにこれらの素子が使われた場合、隣り合ったピクセル同士での光の干渉が起こるのを減らせる。そうなれば映像のブレも少なくなり、現在よりもはるかにシャープで高解像度の写真が撮影できるようになるかもしれない。

(文/山路達也)

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