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補助人工心臓をワイヤレスで駆動する

2012.7.30

ライス大学の学生達が開発したワイヤレス給電装置のプロトタイプ。
ライス大学の学生達が開発したワイヤレス給電装置のプロトタイプ。

次世代の補助人工心臓をめぐる開発が急速に進んでいる。
1990年頃に登場した第1世代は、心臓移植手術までのつなぎとしての役割であった。この世代の補助人工心臓は、体内に本体を埋め込み、体外に大きな機械(コントローラーやバッテリー)をケーブルで連結していたので、患者は自由に動き回ることができなかった。その後、機器の開発が進み、現在の第2世代では、体外の機械はウェストポーチ程度の大きさにまで小型化されている。
ただし、機械が小型になっても依然としてケーブルが必要な点は変わっていない。皮膚をケーブルが貫通するため、この部分から感染症になる危険もある。そこで、開発が進められているのが、本体を完全に体内に埋め込み、ワイヤレスで電力を供給することができる次世代型補助人工心臓だ。
4月18日、東北大学電気通信研究所の石山和志教授を中心とするグループは、ワイヤレスでの駆動が可能な小型ポンプを発表した。サイズは単二形乾電池程度で、120mmHg以上の圧力において、毎分5リットル以上の血液を循環させることができる。ICカードなどでも使われている電磁誘導(コイルの中の磁界を変動させると、コイルに電流が流れる現象)を利用しており、外部装置を近づけるだけで、ポンプ本体を動作させることに成功した。
ワイヤレス給電が可能な補助人工心臓の研究は海外でも行われており、今年5月には米国ライス大学のコンピュータ学科専攻学生達と電子工学科専攻学生らが、ベンチャー企業と協力し、ワイヤレス給電装置の開発に成功している。
このような研究はまだ始まったばかりであり、今後装置のさらなる小型化や安定性の検証、動物実験、そして関係機関の承認を得るプロセスを行っていく必要がある。こうした完全埋め込み型の次世代型補助人工心臓が実現すれば、患者もより自然に近い動作を実現でき、QoL(生活の質)の大幅な向上が期待できるだろう。

(文/山路達也)

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