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流出したオイルを、磁石で引き寄せて回収する

2012.8.6

流出した油を、金属を含む乳剤にすることにより、磁石で操作できるようになる
流出した油を、金属を含む乳剤にすることにより、磁石で操作できるようになる。
Photo Credit: University of Bristol

タンカーや油田から流出した原油は、環境に甚大な被害を与えるため、一刻も早く回収する必要がある。現在の流出油回収技術としては、真空吸引装置で吸い取る方法や、クレーンに付けたバケットですくう方法がある。ほかにも、油を吸収する素材でできたスポンジや、石油を分解する微生物を使った方法などが研究されているが、まだ決定打といえる手法はないのが現状である。
英国ブリストル大学の研究チームが開発したのは、磁石を使って油を回収するユニークな方法だ。もちろん、油はそのままだと磁石にくっついたりしない。磁石にくっつく秘密は、乳剤にある。乳剤(エマルションともいう)とは、ある液体の中に、本来は混じり合わない別の液体が微細な粒子になって分散している混合物を差す。身近なところでは、牛乳もその名の通り乳剤(水中に油が分散している)だし、マヨネーズもそうだ。
ブリストル大学の研究チームは、錯体(金属と非金属の原子が結合した化合物)を含んだ特殊な界面活性剤(石けんや洗剤のように、水と油を混合させる働きを持った物質)を開発した。この界面活性剤を油に混ぜると乳化(乳剤になること)して、油の微細な泡を包む。乳剤には金属が含まれているため、磁石でコントロールして回収できるようになるというわけだ。
研究チームでは、この技術をつかった他分野への応用も検討しており、その1つに医療がある。患者に投与した薬剤を磁石でコントロールし、体内の任意の部位に送り届けられるようにできる可能性があるという。

(文/山路達也)

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