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2万ボルトの電圧に耐える、
半導体素子の作成に成功

2012.8.10

高電圧に耐える素子を使うことで、大幅に変電ロスを減らすことができる。
高電圧に耐える素子を使うことで、大幅に変電ロスを減らすことができる。

近年成長が著しい半導体の利用分野としてパワーエレクトロニクスが挙げられる。これは半導体技術を使って、交流-直流の変換や、電圧の変換を行うもの。パワーエレクトロニクスの中心となるのはパワー半導体で、身近なところでは電子機器や家電の電源回り、太陽電池のパワーコンディショナー(直流電流を家庭で使える交流電流に変換する装置)、送電や鉄道関連の大規模施設で広く利用されている。パワー半導体は年々進歩しており、これによって装置が小型化され、電力ロスも減らせるようになってきた。
パワー半導体の材料としては、電力変換時の損失がSi(シリコン、ケイ素)よりも少ないSiC(炭化ケイ素)に注目が集まっており、半導体メーカーはSiC搭載製品の量産を始めている。
京都大学工学研究科の木本恒暢教授らの研究グループが開発したのは、2万ボルトの電圧に耐える半導体ダイオード(電流を一定方向にしか流さない整流素子)。Siを材料にした半導体では6000〜8000ボルトが限界だったが、SiCを用いることで従来の2倍以上の電圧に耐える半導体の開発に成功した。
従来のパワー半導体に用いられるSi結晶は厚さが10〜50マイクロメートルだが、京都大学の研究チームが厚さ180マイクロメートルの高純度SiCを使って、高い電圧に耐えるための下地を作った。
半導体の耐圧性能は結晶の厚さと不純物の密度で決まるが、超高電圧では理論値の半分程度の耐圧しか得られないことが多い。そこで、研究チームは、高精度の数値解析を行って、独自の素子構造を設計し、電界が局所的に集中しないように工夫した。さらに、素子の表面は高分子の薄膜で保護し、表面からの放電を抑えた。
現在、高圧電線から家庭用の100〜200ボルトに電圧変換を行う場合、複数の素子をつないで段階的に電圧を下げている。超高電圧に耐えられる素子を使って、この電圧変換を一度で行うことができれば、大幅に電力のロスを減らせる。
木元教授によれば、現在日本国内では800億キロワット時の変電ロスが出ているが、2万ボルト耐圧の素子を使うことでロスを1〜2割減らせる可能性があるという。

(文/山路達也)

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