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細菌の一生をコンピューターで
シミュレーションすることに成功

2012.9.10

生物全体の生化学反応を丸ごとコンピューターでシミュレーションできたことで、生物学の進歩はさらに加速するだろう。
生物全体の生化学反応を丸ごとコンピューターでシミュレーションできたことで、生物学の進歩はさらに加速するだろう。

ヒトを含めさまざまな生物のゲノムが解析されているが、複数の遺伝子がどう関連し合っているのかなど、まだ未解明の事象は山のようにある。スタンフォード大学 Markus Covert博士らの研究チームが行ったコンピューターシミュレーションは、生命研究において大きな意味を持つことになるだろう。
研究チームは、細菌「マイコプラズマ・ゲニタリウム」の一生(細胞が分裂するまで)をコンピューター上でシミュレーションすることに成功した。マイコプラズマ・ゲニタリウムは、遺伝子の数が525個と、自然界に存在する生物としては最も少ない。この細菌の細胞内で起こる生化学反応を、1900個の数値パラメーターとしてシミュレーションソフトに入力して、すべての遺伝子の働きを再現した。
従来にも細胞内で起こる生化学反応をシミュレーションする研究はあったが、細胞全体の反応を一度に計算しようとすると、計算量が爆発的に増えてしまうという問題があった。今回の研究では、細胞内の反応を28個のモジュールに分けて、それぞれのモジュールは個別のアルゴリズム(計算の手順)で制御するようにした。モジュールは別のモジュールとコミュニケーションを行うようになっており、これらモジュールの総合的な反応は実際のマイコプラズマ・ゲニタリウムとほとんど一致することがわかった。
正確なコンピューターモデルを使うことで、生物学的な発見をよりスピーディに行えるようになる可能性がある。研究チームはこのモデルを使って、ある遺伝子が欠乏すると、細胞の増殖に大きな影響を与えるということを予想し、実験でもこの予想を裏付ける結果が得られた。将来的には、動物実験なしに遺伝子の変異の影響を知ることができるようになるかもしれない。

(文/山路達也)

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