Science News

人間の目にヒントを得た、
詰まらないインクジェットプリンターノズル

2012.9.14

人間の眼では涙に含まれる油層が、乾燥を防いでいる。これをインクジェットノズルに利用。
人間の眼では涙に含まれる油層が、乾燥を防いでいる。これをインクジェットノズルに利用。

インクジェットプリンターにおいて、現在でも大きな課題となっているのがインクを吐出するノズルの「詰まり」だ。インクを出さないでいると、インクが乾燥してノズルが詰まってしまう。久しぶりにインクジェットプリンターを使う場合、ヘッドクリーニングという作業を行うようになっているが、これは大量のインクを噴き出させてノズルの詰まりを解消しているのだ。また、問題なく印刷が行われている場合でも、すべてのノズルが詰まっていないということはまれである。一般的なインクジェットプリンターではヘッドを少しずつずらして印刷するようになっており、いくつかノズルが詰まっていてもきれいに印刷できる工夫している。最近では、大量のノズルを一列に並べ、ヘッドを動かさずに高速印刷を行うラインヘッド搭載のインクジェットプリンターが業務用で使われるようになってきているが、こうしたラインヘッドでは1つのノズルが詰まっていると、そのノズルの担当部分が線として現れてきてしまう。ノズルの詰まり対策は、どのメーカーにとっても頭の痛い問題だ。
ミシガン大学 Jae Wan Kwon博士らの研究チームは、人間の眼にヒントを得て、「詰まらない」(Clog-free)のインクジェットノズルを開発した。研究チームが利用したのは、シリコーンオイルだ(ケイ素のsiliconではなく、人工高分子のsilicone)。人間の眼では、涙に含まれる油層が眼の表面から水分が蒸発するのを防いでいるが、これと同様の効果をシリコーンオイルで実現した。ただし、人間の眼の場合はまぶたの動きで油層を眼球上に広げるが、微小なインクジェットノズルではそういうわけにいかない。そこで、電圧をかけてシリコーンオイルの動きをコントロールしている。
Kwon博士によれば、この「詰まらない」ノズルを使うことで、インクの無駄を大幅に減らせるという。インクジェットプリンターは3次元の造形や、バイオファブリケーション(細胞をプリンターで立体的に配置して、人工的な器官を作る研究)に用いられるようになっているが、こうした用途では高価な材料を使うことも多いため、ノズルの詰まりを防げる意味は大きい。

(文/山路達也)

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