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生きた細胞とエレクトロニクスを融合させる

2012.11.12

3次元構造のナノワイヤーで細胞を培養したことで、組織の奥深くにある細胞からの信号も感知できるようになった。
3次元構造のナノワイヤーで細胞を培養したことで、組織の奥深くにある細胞からの信号も感知できるようになった。
Photo Credit: Harvard University

生体と機械が融合したサイボーグはSFの定番アイテムだ。筋肉の動きを感知することで、ある程度ユーザーの意図通りに動かせる義手や義足は登場しているが、これらのデバイスは人体の組織と一体化しているわけではない。しかし、ハーバード大学の行っている研究によって、生体組織と機械の融合は夢物語ではなくなりつつある。
Charles Lieber博士らの研究チームは、ナノスケールの電線で作った三次元のネットワーク構造を、ヒトの組織に埋め込むことに成功した。この研究の目的は、生きている細胞や組織の活動を調べることにある。
従来は、細胞や組織に電極を取り付けて電気信号を計測するのが一般的だったが、これだと多少なりとも対象にダメージを与えて、本来の活動を妨げてしまう。そこで、研究チームは細胞や組織と融合するエレクトロニクスを開発し、対象に影響を与えずに計測を行う手法を開発したのである。
この手法では、まずナノスケールのワイヤーの回りに有機ポリマーのメッシュを配置して、二次元の基板を作る。このナノワイヤーがセンサーとして働くことになる。次に、やはりナノスケールの電極をメッシュに埋め込む。有機ポリマーを溶かすとナノワイヤーのメッシュが残るので、これを畳んで三次元形状にし、ここで細胞を培養して組織を作っていく。つまり、エレクトロニクスのメッシュの中で細胞を培養することで、中にセンサーの埋め込まれた組織を作るわけだ。研究チームは、心臓と神経の細胞を使ってナノワイヤーの三次元ネットワークが埋め込まれた組織を作成。ナノワイヤーによって、組織の奥深くにある細胞が発する電気信号も計測することができた。また、同様の手法で血管も作り、血管内外のpHの変化も計測することに成功した。
Lieber博士は、この技術がまず創薬分野で利用されると考えている。将来的には、生体内の変化を検知して、特定の電気刺激を発したり、薬剤を自動的に投与する仕組みに応用できる可能性があるという。

(文/山路達也)

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