Science News

自己修復機能を備えた人工皮膚が実現されつつある

2013.1.15

スタンフォード大学で開発された人工皮膚は、メスで切断してもくっつければ元の性能を回復する。
スタンフォード大学で開発された人工皮膚は、メスで切断してもくっつければ元の性能を回復する。
Photo Credit: Benjamin Tee and Chao Wang

人間の皮膚は、実に複雑な機能を備えている。ある程度自由に伸び縮みができ、微妙な刺激を感知でき、さらに傷を受けても自然と治癒されていく。こうした特性を備えた人工皮膚を作ろうという試みがさまざまな研究機関で行われているが、複数の特性を両立することは容易ではない。自己修復機能のあるポリマーは実現されているが、伝導率が低いため、センサー機能を持たせることが難しい。
スタンフォード大学 Zhenan Bao博士らの研究チームが開発した素材は、人工皮膚の可能性を一気に広げることになりそうだ。
Zhenan Bao博士は、2010年に触覚を備えた人工皮膚素材を開発して話題を呼んだ。この人工皮膚は、ゴムフィルムにコンデンサを組み込んで、厚さの変化を測定するというもので、圧力の変化をミリ秒レベルで感知することができる。
2012年11月に発表された新しい研究ではアプローチを変え、自己修復機能を持ったポリマーにニッケル原子を導入している。ポリマーに圧力やねじる力が加わると、ニッケル原子間の距離が変化し、それに伴ってポリマーの電気抵抗も変化する。これを感知することで触覚を実現するわけだ。
また、作成したポリマーをメスで分割したあと、切断面を15秒間押しつけると、伝導率が元の90%程度まで回復することがわかった。さらに、10分間押しつけることで、切断したポリマーは完全に修復された。切断と修復は何度も繰り返すことが可能だという。
現在のところ、作成した人工皮膚は曲げることはできても、伸ばすことができないが、研究チームは今後伸縮性も高める計画だという。
触覚、自己修復機能を備えた人工皮膚が実現できれば、介護用ロボットや義肢が大きく進歩すると期待されている。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.