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未来の服は、ヌタウナギの粘膜から作られる?

2013.2.4

未来のファッションは、ヌルヌルしたヌタウナギの粘膜でできているかもしれない。
未来のファッションは、ヌルヌルしたヌタウナギの粘膜でできているかもしれない。

生物由来の繊維は、大きな可能性を秘めている。
例えばクモの糸の強度は同じ太さの鋼鉄の5倍、伸縮率もナイロンの2倍という特性を持つ。だが、クモは肉食で共食いを起こすため、カイコのように糸を取り出すことができない。そのため、クモ糸と同様の特性を備えた繊維を合成するために、さまざまな研究者が挑んできた。クモ糸の遺伝子を導入したヤギを作り、その乳からクモ糸のタンパク質を生成する。あるいは、大腸菌の遺伝子を改変して、クモ糸を合成させるといった手法が研究されている。
しかし、哺乳類を使ってタンパク質を合成すると、コストが非常に高くなって、採算が取れない。また、バクテリアのように単純な生物で、クモ糸のように複雑なタンパク質を安定して生産することは難しい。こうした課題があるため、合成クモ糸の量産化はまだ成功していない。
カナダ オンタリオ州にあるゲルフ大学のDouglas Fudge博士らは、クモとは別の生き物に目を付けた。それが、ヌタウナギだ。
ヌタウナギは原始的な脊椎動物で、全身の皮膚が粘膜で覆われている。研究チームがヌタウナギの粘膜から繊維を分離して強度を調べたところ、ナイロンの10倍になることがわかった。さらに、研究チームは、乾燥させた粘膜からタンパク質の細い繊維を取り出すことにも成功した。
ヌタウナギ粘膜に含まれるタンパク質の分子は、クモ糸に比べて数分の1以下のサイズである。そのため、バクテリアを使って合成するのもクモ糸より容易だと考えられている。現在のところ、ヌタウナギ粘膜のタンパク質を効率的に合成する手法は実現されていない。しかし、Fudge博士はヌタウナギ粘膜のタンパク質は、将来的に化学合成繊維の代替品になり得ると考えている。

(文/山路達也)

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