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古代の赤い染料が、エコフレンドリーな電池になる

2013.2.12

数千年前から使われてきた天然の染料が、次世代電池のカギになるかもしれない。
数千年前から使われてきた天然の染料が、次世代電池のカギになるかもしれない。

電子機器から電気自動車まで、リチウムイオン電池の用途は急速に広がっている。軽量で大容量のリチウムイオン電池だが、問題は少なくない。その1つが、環境負荷だ。
リチウムイオン電池の正極には、コバルト酸リチウムが使われている。コバルトは希少元素であり、またコバルト酸リチウムの生産、リサイクルには多くのエネルギーを必要とする。リチウムイオン電池の製造には、容量1kWh当たり72kgの二酸化炭素が排出されるという試算もある。
こうしたリチウムイオン電池の問題点を改善するために、さまざまな電極材料の研究が行われている。ニューヨーク市立大学シティカレッジ、ライス大学、米陸軍研究所の共同チームが研究を進めているのは、プルプリンを電池材料に使ったリチウムイオン電池だ。プルプリンは、セイヨウアカネの根から作られる赤いアカネ染料に含まれている物質である。3500年以上前から、アジアや中東ではアカネ染料が広く使われてきた。
プルプリンはリチウムとうまく結びつき、従来の電極材料と同様に電子を出し入れすることができる。また、プルプリンを使った電極は製造が容易という利点もある。プルプリンをアルコールに溶かし、リチウム塩を加えるだけでよく、製造・貯蔵とも室温で可能だ。
さらに、環境面でも利点が多い。プルプリンには毒性がないため廃棄時の環境負荷が低く、植物であるセイヨウアカネは成長する際に二酸化炭素を吸収する。
現在の研究課題としては、電池材料としての性能向上や、プルプリンに似た分子の合成手法開発などが挙げられる。しかし、研究チームによれば、こうした課題を含めても、商用「グリーン」リチウムイオン電池は数年程度で実現できそうだという。

(文/山路達也)

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