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アルツハイマー病治療のために、
脳にペースメーカーを埋め込む

2013.3.18

前頭葉に埋め込んだ電極から刺激を送ることで、認知機能の改善を目指す。

アルツハイマー病では、異常なタンパク質が脳内にたまり、神経細胞が脱落、脳が萎縮し、記憶障害や認知障害が起こるようになる。75歳以上の高齢者では15〜25%に老人性痴呆の症状が見られるが、そのうち4割以上がアルツハイマー病だと言われている。
アルツハイマー病の原因や発祥因子についてはまだわかっていないことが多い。治療には薬物療法が行われるが、これは病状の進行を遅らせたり、周辺症状(不眠、幻覚など)に対応するためのもので、現在のところまだ根本的な治療薬は登場していない。高齢化の進む先進国において、アルツハイマー病の治療薬の開発は、大きな課題となっている。
その中、2013年1月に米国オハイオ州立大学のウェクスナー医療センターがユニークな治療法の臨床試験を開始した。それは、脳内への「ペースメーカー」の埋め込み手術だ。
すでにパーキンソン病などの治療には、DBS(Deep Brain Stimulation:深部脳刺激術 )という手法が一般的に行われるようになっているが、オハイオ州立大学の治療法はこれをアルツハイマー病に応用したものということになる。
パーキンソン病のDBS治療では、視床下核という部位に電極を挿入し、胸部に刺激装置を埋め込んで、これらを皮下の電線でつなぐ。一方、オハイオ州立大学の手術では、認知や行動を制御する前頭葉に電極を埋め込んだ。
前頭葉の電極から微細な刺激を送り込むことで、前頭葉での異常な活動を調整して、正常化することを目指す。研究を主導している、神経科医のDouglas Scharre博士や神経外科医のAli Rezai博士は、アルツハイマー病患者の認知機能が改善すると期待している。
最初の患者となったのはアルツハイマー病の初期段階にある女性で、手術の経過は今のところ良好だという。

(文/山路達也)

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