Science News

生きているかのように振る舞う粒子

2013.4.15

粒子に光を当てると、生きているかのように群れを作ったり、バラバラになったりする。
Photo Credit: Jérémie Palacci of New York University.
http://www.wired.com/wiredscience/2013/01/living-crystal/

ライフゲームというコンピュータシミュレーションがある。ユーザーが画面上の好きな位置にセル(細胞を表す点)を置いてシミュレーションをスタートさせると、シンプルなルールに従って各ドットの生死が決まるというもので、セル達がまるで生きているかのようにさまざまなパターンを描き出す。ライフゲームのセルは生きているわけではないが、生命の誕生や淘汰の仕組みについて示唆を与えてくれる。
2013年1月、ニューヨーク大学のJérémie Palacci博士らが発表したのは、生きているかのように振るまう粒子だ。研究チームが作成した粒子は、顕微鏡サイズの赤鉄鉱(鉄の酸化物でできた鉱物)のキューブをポリマーで覆ったもの。キューブの1つのコーナーだけはポリマーに覆われておらず、露出している。
これらの粒子を過酸化水素に浸し、特定の周波数の青い光を照射する。すると、赤鉄鉱に電気が流れ、露出しているコーナーの周辺で化学反応が起こる。過酸化水素が部分的に分解されて濃度差が生じると、濃度差にしたがって粒子は移動して1つに固まろうとする。青い光の照射をやめると粒子は集まるのをやめてバラバラになり、再度照射するとまた固まろうとする。その様子は、確かに動物の群れのようだ。
こうした粒子の動きは平面上に限定されているし、ただ集まったりバラバラになったりするだけなので、これだけで生命が生み出されたというわけではない。しかし、この粒子の群れは、過酸化水素を分解するという物質交代(新陳代謝)や、自己組織化といった生命の要素のいくつかを備えている。こうした自然現象が生命の誕生につながっていったと考えている科学者もいる。
現在、研究チームでは、新陳代謝と自己複製能力を備えた粒子を開発しているところである。私たちとはまったく異なる物質、原理でできた「生命」がいつか誕生するのかもしれない。

(文/山路達也)

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.