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自己修復機能を備えた集積回路

2013.5.27

高出力レーザーで破壊されたトランジスタの電子顕微鏡写真。こうしたダメージにも関わらず、チップは自己修復機能によって働き続けた。
Credit: Jeff Chang and Kaushik Dasgupta

人工物と生物の大きな違いの1つが、自己修復性だ。しかし現在、さまざまな分野の研究者が人工物に自己修復性を与えようとしている。
最も実用化が進んでいるのは、材料分野だろう。すでに、細かな擦り傷であれば自己修復できる塗装は自動車のボディに使われるようになっているし、産業技術総合研究所が2012年に発表したように、光を当てると損傷を修復できるゲル材料も開発されている。
より複雑な構造に自己修復性を持たせようという研究も進んでいる。2012年にイリノイ大学の研究者が発表した集積回路は、自己修復機能を持っており、回路がちょっと損傷しても断線しない。(これまでの集積回路は、回路内のどこかが断線すると回路全体が動作しなくなってしまっていた)回路内の導線にマイクロカプセルが散布されており、回路が損傷した時にはマイクロカプセルに入っていた液体金属が亀裂を埋めて導電性を回復させるのだ。
そして、2013年3月にはカリフォルニア工科大学がまったく別のアプローチで自己修復性を実現した集積回路を発表した。これはミリ波(電磁波)の増幅器で、1円玉程度のチップに自己修復機能も含めてすべての構成要素が収められている。研究チームは高出力レーザーを使ってチップ内のトランジスタをいくつか破壊したが、1秒と掛からずに自動的に復旧した。
チップ内には温度や電流、電圧などのセンサーが入っており、センサーからの情報は同じチップ内のユニットに送られる。このユニットがチップ全体の状態を分析し、ダメージのあったパーツは使われないようにするといった調整を行うのだ。また自己修復機能付きのチップは温度変化、電圧変化に対応して最適な調整を行うため、修復機能がない同等のチップに比べて消費電力が半分程度で、性能も安定しているという。
多くの電子回路が自己修復機能を持つようになれば、メンテナンスの手間、コストを大幅に減らせる。宇宙や砂漠といった厳しい環境下でも安定して電子機器が利用できるようになれば、研究や産業に大きなインパクトを与えそうだ。

(文/山路達也)

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