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非食用植物から、デンプンを取り出す

2013.6.24

トウモロコシの実だけでなく、葉や茎までも食用になるかもしれない。

地球上の人口は2050年には90億人に達すると予想されており、食糧問題が懸念されている。食糧問題への対応としては、農作物の品種改良による収穫高の向上や、より効率的な農法の開発などさまざまなアプローチがあり、これまで食用とは考えられていなかったモノの利用もその1つだ。微生物のミドリムシを食用にする研究がベンチャー企業によって進められているほか、国連食糧農業機関(FAO)はタンパク質が豊富な昆虫食を推奨している。
バージニア工科大学のPercival Zhang准教授らが研究しているのは、セルロースをデンプンに変える技術だ。セルロースは植物細胞の細胞壁の主成分で、化学的に安定していて分解するのが難しい(人間はセルロースを消化できない)。一方のデンプンは、私たちが日常的に食用にしているお馴染みの物質だ。デンプンにはアミロースとアミロペクチンの2種類がある。
食用にならないセルロースと、食用になるアミロース。実は、この2つの物質の化学式は同じで、ただ分子の結合の仕方が違うだけだ。
Percival Zhang准教授らが開発したプロセスでは、酵素を利用してセルロースの分子結合を破壊し、アミロースとして再結合させる。このプロセスは、高価な装置や熱、化学薬品を使わず、廃棄物も出さない。トウモロコシの茎や葉をこのプロセスにかけると、30%がアミロースに変換され、残りは加水分解されてエタノール生産用のグルコースになる。トウモロコシの茎や葉以外の植物に関しても、このプロセスは適用できる。鍵となる酵素は磁性ナノ粒子に固定されており、磁気を使って回収して再利用される。
研究チームによれば、このセルロースをデンプンに変える技術は食料生産以外にも応用できる可能性があるという。例えば、食品用ラップフィルム。現在は合成樹脂が広く使われているが、食べることができ、生分解性(微生物によって分解される性質)のデンプンは、その代替物にもなりえるという。他にも、デンプンを水素の貯蔵に使うというアイデアも提唱している。水にデンプンと特殊な酵素を加えることで、二酸化炭素と水素に分解できるというのだ。

(文/山路達也)

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